24.もれてしまったトドメの言葉
同種からの蔑んだ目。
天井から降り注ぐ、人間達の似たような声。
磨り潰される前の自分を思い起こす、新入り達の言葉。
長く凪いでいたテンタクルの気持ちはいくつもの事柄で揺さぶられて、ぶれる心の輪郭がまるで見えない。
クッションはベッドの下に転がり落ちてしまった。
シワができるのも構わずに、スカートの裾を強く握りしめる。
耳に掛けた薄桃の髪がこぼれ落ちて、カーテンのように視界を遮った。
ぼやける輪郭が鬱陶しくて、振動を止めたい一心で、ただただ言葉を吐き出した。
その言葉がどんな形で相手に刺さるかなんて、考えもせずに。
『身の程をわきまえなさい。
自由なんてないわたし達は、どこにもいけずに死ぬのよ』
ミミックから、返事はない。
しんと静まり返る二部屋に、されどテンタクルは震える心を落ち着かせるのに精一杯で、取り繕う言葉さえ掛けられない。
次の瞬間、触れていた触手が強く払われた。
箱の蓋が跳ね上げられて、蝶番が悲鳴を上げる振動を感じた。
ぷしゅう、ばん、と乱暴な音が聞こえてきて、その時テンタクルはついにミミックが怒ってこちらへ殴り込みにくるのかと思っていた。
単純な殴り合いならごちゃごちゃと考える必要もない。
来るなら来てみろ、と触手を己の身に戻して身構えるテンタクルはむしろ少し安心さえしていた。
だが、今日はとことん思考が冴えない日であるらしい。
パタパタと今日だけで何度も聞いた足音は、こちらに来ることはなく消えてしまった。
ガチャ、ずぼ、と不可解な音を引き連れて、そのまま静寂だけが残される。
「……ミミック?」
気持ちの問題ではなく、テンタクルの額にじわりと汗が滲みはじめる。
伝う液体に温度はなく、湿り気に満ちた空間は得意であるはずなのに今はもがきたくなるような質量を持つ空気に不安だけがかきたてられる。
小さく掛けた声に返事はない。
「ねえ、ミミック!」
大きく声を張り上げても、やはり返事はない。
触手をもう一度伸ばしてミミックの部屋中這い回って粘液で汚しても、今度は欠片も気配を察知することはできなかった。
この区画にいるなら、大きな声を出せば聞こえるはずなのに。
ミミックが自分の呼び掛けを無視したことなんて一度もないのに。
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