13.虜囚である彼女たち

なす術なく海底に沈んでいく石のように、その光の見えない眼から視線を反らすことができない。

魅入られていたマッピーが我に返れたのは、不意にテンタクルが顔を背けたからだった。


「あなた、魔族がここへ寄越す代表をどうやって選出しているか知っていて?」


触り心地を確かめるように、傍らのクッションへ手のひらを添える彼女からの突然の問いかけに、目を白黒させながらいいえ、と答える。

それに対して反応はそう、と一言。

正答を期待していた訳ではないとわかるそっけない返事であった。


「全ての魔族がそうだとは断言できないけれど、でもほとんどの魔族はそうしているわ」


強い力で押しているのだろう。

埋めた手のひらは緩むことなく、正方形のクッションはぎりぎりとへこんで変形していく。


「あいつら、一番役に立たない奴を選んで押しつけてるのよ」


マッピーはぱかりと口を開けて、言葉が作れず無様に閉じた。

その台詞を選出されたであろうテンタクルが言うということは、そういうことなのだろう。

手慰みに軽く押した台車の上で、溢れた粘液がたぷたぷと不安定に揺れた。


「能力や特性を好き勝手に解析されて、それが終わったら労働力という名の奴隷行きだと分かっていて優秀な奴を寄越すと思う?」

「奴隷行きなんて、それは」

「あなたも職員なら知っているでしょう? ここが交流会館なんて建前だけの、魔族の実験場だなんてこと」


マッピーはやっぱり開けた口をつぐむしかなくなった。

就職時の面接でここの所長が純粋に魔族と仲良くしたい人物であることは知っている。

だが、その性質が稀有である人間達の複雑に絡み合った思惑によってこの施設が成り立っていることもまた、知っている。

労働力として扱うために必要な生態を調べる場所である事実を、一介の職員であるマッピーは否定できなかった。


「ぼうやだってそうよ。

箱に隠れ棲むミミックがあの図体じゃ、さぞ目立って煙たがられたでしょうね」


ぽすぽすとクッションに手を埋めていたテンタクルが、再び顔を上げる。

凪の瞳は鏡のように、こちらの表情を反射する。

ベッドから滴り落ちて、くねる触手の一本がタイルの縁を辿り、マッピーの足首をするりと撫でた。


「下手に事情を知って、同情を覚えてしまえば人間は途端に弱くなる。

ここで平穏に働きたいなら、わたし達と仲良くしないことね」


眼前にかざされた触手の尖端はまぶされた毒液が滴り落ちて、まるで威嚇のよう。

中途半端な希望なんてはやく捨て去って、諦めてしまえと言わんばかりに口の端だけで笑った魔族の触手姫は、いかにも人類の敵らしい振舞いでベッドの玉座に座っていた。

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