02

「また、外を見てるの?」


「うん。雨の音が、心地よくて」


 彼は、わたしの友達。入院することになって、毎日、ここへ通った。


「まだ、気持ちは変わらないの?」


「変わらないよ。ずっと」


 彼は、目が、見えなかった。生まれつきのもので、彼は最初から光を知らない。

 かわりに、彼は物音を聴くとその形や場所、大きさや重さまで正確に把握することができた。異常聴覚。


 最近は医療も進歩していて、彼の目は、もう簡単に治る。移植でもいいし、細胞幹再生治療でもいい。


 それでも。彼は、目を治そうとしない。


 雨が続くからと無理を言って、検査のために入院させるまでは、こぎつけた。あとは、治療の許諾を取るだけ。


 無理押しはしなかった。入院してもらえるだけでも、かなり無理をしたのだから。これ以上何か要求すれば、きらわれてしまうかもしれない。それが、こわい。


 彼に。


 わたしを、見せたい。


 彼の目を、わたしも見つめたい。見つめ返したい。その上で。彼に愛を伝える。


 わたしの告白のために。彼の目を。治す。ばかげたことだと分かっていても、それでも、彼と同じ景色を見て、彼の視線を、感じていたい。

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