ヴァレリー・ソラナス・ガンクラブ

@spongeno

第1話

 偉大な人たちだ。実に立派なものだ。彼らには業績があって、魅力的な人々だ。輝く知性と才能、カリスマ性をもっている。

 私は彼らがどこにいてもをかぎ分けることができる。偉大な人たちの匂いをかぎ分けることができる。私は、彼らの周りをうろちょろと纏わりついていたのだから。

だから、私は偉大な人たち狩りには持ってこいなのだ。

今は、猟師に纏わりついているのだ。

 

 私の猟師を見て下さい。彼女を見てみて下さい。猟銃を構えるその腕の逞しさ。ぴんと張った筋肉は、私のぶよぶよの腕とは大違い。がっしりした足、鋭い眼光。その瞳に睨まれて、私はうっとりと、縮み上がる。偉大な人狩りのための、マウンテンブーツ。だぼっとした、パンツにつつまれた力強い脚。筋肉と脂肪。あのがっちりと優しくもりあがった胸。それを包むベストを見よ。

[ Valerie Solanas GunClub]

と刺繍されているでしょう。

ヴァレリー・ソラナス・ガンクラブ。ヴァレリー・ソラナス。アンディ・ウォーホールを撃った女。

偉大な人たち猟師はみなこのクラブに入っている。


偉大な人たち!偉大な人たち!

皆、偉大な人たちを愛している。自分自身の偉大な人を所有したいと思っている。偉大な人たちの剥製を、リビングに置いて置くのが今の流行りだ。

偉大ひとたちは、いつだって私たちをときめかせる。

人生をときめかせる。

皆、偉大な人たちを手に入れたいものなのだ。

そうすれば、それを友達にみせびらかして、自分がちょっと特別なんだって気分になれる。


 だから、猟師たちは偉大な人たちを狩りにでる。

リビングルームの目玉になる偉大な人たちを狩りに行く。私は鼻がきくから、猟師の先に行く。クンクン匂いを嗅ぐ。偉大な人たちの偉大な匂いをかぎ、後をつける。猟師は私を急き立てる。早く偉大な人たちを見つけろと急き立てる。私の尻をぴしゃりと叩く。

 猟師は粘り強い。彼女は偉大な人たちを何がなんでも撃ちたい。その急所を打ち抜きたい、そのねっとりと流れる赤黒い血を見たい、と思っている。彼女はタフだ。私が狩りに飽きてくるのを見て取ると、ばちんと頬を叩く。彼女のラベンダー色の爪がきらりと輝く。


 偉大な人たちを仕留めたら、剥製師たちの元に納めに行く。剥製師たちは、偉大な人たちの内臓を抜く。心臓、胃袋、肝臓、大腸、小腸、脾臓、肝臓。頭蓋をキレイに切り取り、脳ミソも取り出す。皮膚を剥ぐ、丁寧に丁寧に。骨を取り除き磨き、組み立てる。そこに石膏で肉付けをして、皮を被せるのだ。知的で、美しく、指導力に満ちたユーモアあふれるポーズを取らせる。偉大な人たちの偉大さはこれで永遠になる。

彼らの内臓はとても匂う、偉大であればあるほどに。

私は、その匂いを肺いっぱいに吸い込む。

ああ、偉大な人たち!

その、悪臭!

私は、この匂いに嘔吐する。猟師は眉を顰める。

あたりは、信じられない惨状だ。

私を包み込む死臭、私自身の悪臭!猟師は、私を蹴とばす。



偉大な人たちは駆けずり回っている。私は、息切れしながら、ハアハアいいながら、そのあとを追う。

偉大な人たちは、穴ぼこに隠れる。穴ぼこが彼らを守れると一縷の望みを託す。

私は、それを探し出す。もう逃げ場のない偉大な人たち。私は、猟師に合図する。ここだよ、ここだよ!

偉大な人たちは恐怖におののき、叫ぶ。

私は、煩わしいので耳をふさぐ。

猟師は猟銃を構えている。猟師は笑っている。彼女の獰猛な歯!

猟師の腕に力が入る、もう弾が発射されようとしている。


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