朝、目覚めると君が隣にいる。

ケーワイのイチ

第1話

「お・・・く・・・・さい」

「ん、んん」

「おき・・・ください」

「な、なんだ」

「そろそろ起きてください」

 ゆっくりまぶたを開けるとそこには、肩まで伸びている黒髪の美女がいた。

これはいわゆるボブという髪型だ。

顔は整っており、誰もが見ても美人と言える。

「かわいい・・・」

「朝から何言ってるんですか。早く起きてください。遅刻しちゃいますよ」

 少し照れながら彼女は部屋を出て行った。

 大きなあくびをしたあと、布団をたたみ、歯を磨き、テーブルに座った。

「凛さん。おはようございます」

「キョウくん。やっと起きましたね?朝ごはんは作っておいたからちゃんと食べてね。弁当はテーブルに置いてあるよ。じゃあ、また夜に」

 そう言い、彼女は足早に家を出ていった。


 俺は今年の春からお隣に引っ越してきた大学生の樋口ひぐち りんと付き合っている。

 きっかけは、去年の冬。

 彼女から鍋を食べないかと勧められた。

香山かやま君ってさ、彼女とかいるの?」

「いないですよ」

「じゃあ、好きな人は?」

「いませんね」

「じゃあ、私と付き合わない?」


 こんな軽い会話から付き合うとはまさか思ってもいなかったが、俺は今の生活に満足していた。

「よし。行くか」

 身支度を済ませ俺は高校へと向かった。

 高校では友達も話せる人もおらず、クラスでは空気として扱われていた。

 クラスでいじめられたりちょっかいかけられたりするよりかはましかな。

 そんなことを考えていると6限目の授業が終わった。

 本屋に寄って帰ろうとしたが、バイトまでの時間がそこまで無かったのですぐに帰路へつくことにした。


 午後の8時まで仕事をしたあと、足早に家に帰った。

「おかえりなさい」

 ドアを開けると優しい声が聞こえてくる。

「ただいま、凛さん」

「今日の晩御飯はステーキだよ」

「おお、すごいね。でも、どうして?」

「それはね?今日、朝から私の事、かわいいって言ってくれたからキョウくんのためにちょっと奮発しちゃった」

 お肉のパックに視線をやると30000円と書かれたのが2つ置いてあった。

「あれ?0が1つ多いんだけど」

「え?合ってるよ?」

「いや、だって30000円ってなってるし」

「いやいや。だから、これは30000円だし」

「サンマンエン?」

「そ。さんまんえん」

「ソレガニマイ?」

「そ。30000が2枚」

「えええええええぇぇぇ!?!?こ、こんな高いの買って本当に大丈夫なの!?」

「う〜ん。若干、危ないかな?まぁ、何とかなるんじゃない?」

 決して学生なので2人ともそこまで裕福ではないのだが、それが2枚となるととんでもない出費になる。

 ましてや、凛は大学の学費を半分払っているのでさらに余裕はないはず。

 なのに、この人はそれを機嫌がいいから買ってしまう。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「キョウくん?」

「凛さん。これからはさらに節約しましょう」

「へ?」

「これからはよるの寝る前まではうちにいてください。それで、凛さんの家の電気、ガス、水は極力使わないでください」

「ど、どうしたの?キョウくん?」

「あと、買うのはいいですけど、ちゃんと値段を見て凛さんの生活を考えて買ってください」

「わ、わかりました」

「絶対にですよ?」

「は、はい…」

 ちゃんと誓ってくれた凛は少しぐずった表情だった。

 一応、俺のために買ってきてくれたんだよな......。

 そう考えると、少し申し訳なく思った。

「よし。そろそろお腹が空いたのでご飯食べませんか?凛さんが選んできたお肉早く食べたくてよだれがでそうです」

 そう言うと凛はパッと明るくなり、「では、準備をしてくるね」と笑顔で準備をしに行った。

「やっぱり、かわいいですね」

 そう呟き、テーブルへと向かった。

「キョウくん!見て!このお肉、すごい美味しそうだよ!」

「そうですね。さすがは黒毛和牛」

 子供のようにはしゃいでる凛を見ていると不思議と安心感があった。


「美味しかったですね」

「そうだねー。口の中でジュワ〜って旨みが拡がって、溶ける感じ」

「そうですね。初めて食べました。」

「あ、そうだ。月1であれを食べるのっていいんじゃない?」

「そんなことしてたら、凛さんの貯金がゼロになりますよ」

「そうだね。じゃあ、半年に1回」

「ダメです」

「じゃあ、祝日に1回」

「ゴールデンウィークで死にますよ」

「じゃあ、来年のこの日は?」

「それならいいですね」

「やったー!これから、この日は高級ステーキの日だね!」

「でも、次からはもう少し安いのでいいですからね?」

「はーい!」

 こうして、毎年この日には高級ステーキがでるようになった。

「じゃあ、そろそろ寝ようかな」

「ねぇ、キョウくん。私もここで寝ていいかな?」

「え?でも家は隣に」

「いいじゃん。キョウくんが節約って言ったんだよ」

 凛の顔を見るとうるうるした瞳で訴えてくる。

 どうも俺はこの目に弱いらしい。

「わかりました。僕は布団で寝るのでベットを使ってください」

「いや?一緒にベットで寝るんだよ?」

「狭くて寝れませんよ」

「大丈夫。2人でギュッでして寝れば寝れるよ?」

 その顔はいつにもなく輝いていた。

「そ、そうですか。じゃ、じゃあそろそろ寝ますか」


「そうだね。おやすみ。キョウくん」

「おやすみなさい。凛さん」







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