ぷるぷる。ボクは……、悪いスライムだよ?
刺菜化人/いらないひと
第1話ぷるぷる。ボクは……、悪いスライムだよ?
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日も獲物を探して山の中をお散歩中さ。
おっ! さっそく獲物発見!
……なんだ、人間が一匹倒れてるだけか。
世界一悪いスライムのボクには物足りないな。
よし、まずは少し離れたところからこっそり様子を探ってやろう。
すぐには殺さないぞ。
じわじわといたぶってやる!
「うう……。腹が減ってもう動けない……。このまま餓死するしかないのか……」
なるほど、動けないのか。
この辺りは人間があんまりこないからな。
きっと不安で仕方ないはずだ。
よーし、ボクが更なる恐怖を与えてやろう!
『スライムは周辺に獣がいないか探し始めた』
んーと……。
いた、イノシシだ。
あれはきっとこの山を恐怖で支配している主だな。
よーし……。
必殺! スライムニードル!
『針というよりは槍のような形状に変形したスライムによって、巨大なイノシシは頭部を貫かれてあっさりと絶命した』
よし、一撃で仕留めたぞ。流石はボクだね。
あとは……、火炎の息!
ふっふっふ。野生の猛獣もボクにかかればこの通り、一瞬で丸焼きさ。
中までしっかりばっちりこんがりだよ!
あとはこいつを……。
『スライムはイノシシの丸焼きを背負って先程の男のところへ向かった』
よっこらせっと。
ドッスーン!
『スライムは気付かれないように丸焼きを男の近くに放り投げると、急いで身を隠した』
「こ、これは……?」
ふっふっふ、こわいだろー?
こんな大きいイノシシを丸焼きにしちゃう強いスライムが近くをうろついているんだぞー!
ボクに襲われるかもしれない恐怖を存分に味わうがいい!
……あ、そうだ。
今度は人間どもの住処に行ってみよう。
あいつらひ弱だからな、きっとたくさん悪いことができるぞ!
こっちの人間は見捨てて行こうっと。
ふっふっふ。我ながら悪いスライムだぜ。
ボヨン、ボヨン。
『スライムは思い立ったが吉日とばかりに人里に向けて跳ねていった』
残されたのは飢えた人間とイノシシの丸焼きだけである。
「イノシシうめぇ! きっとこれは神様の思し召しだ。助かった!」
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日は獲物を求めて人間どもの巣に来たよ。
おっ! さっそく人間を発見!
「ああ痛い……。腰が痛くて仕方がない」
メスのエルダーヒューマンだな。
腰を痛めてるみたいだ。
……そうだ! 悪いこと思いついたぞ!
ボヨンボヨン、おらー!
『スライムは老婆に体当たりして地面に倒すと、腰の上に乗って上下に跳ね始めた』
ばあさん、腰が悪いんだって?
だったら弱点を集中攻撃だー!
ボクに正々堂々なんて言葉は通用しないんだぞー!
「おうおう、これは気持ちがいいねぇ」
おらおらー! 老いぼれめー!
泣いたってやめないんだからなー!
とどめだ!
必殺! スライム超振動!
ボクが説明しよう!
スライム超振動とは、くっついた相手の体を超高速で震えさせることで弱った部分にさらなるダメージを与えるという恐ろしい技なのだ!
ボヨヨヨヨヨンッ!
『スライムとおばあさんの体は残像がいくつも発生するほどの速さで震えまくった』
ふっふっふ。弱った老婆を痛めつけるなんて、ボクはなんて悪いスライムなんだ。
我ながら自分の悪の才能が恐ろしくなってくるよ。
……うーん。
でも、やっぱり老い先短い人間じゃ、おもしろくないな。
だってどうせすぐに死ぬんだもんな。
あ、そうだ。
今度は子供を苦しませてボクの恐ろしさを刻み込んでやろう。
未来ある若者が蹂躙される恐怖!
人間どもはきっと夜も眠れなくなるぞ!
ボヨン、ボヨン!
『満足したスライムは新たな獲物を求めて跳ねていった』
残されたのはおばあさんだけである。
「あー、楽になった。なんだか体中の痛みがなくなって若返った気分だよ」
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日も人間の巣に来たよ。
四本足で歩くちっこい人間のご機嫌をとってるんだ。
「あぅー」
「あらあら、スライムと遊んでるの? 仲良しさんになったのね」
ふっふっふ、愚かな人間どもめ。
こうして愛想を振りまいているのはもちろん演技さ。
ボクはすっごく腹黒いんだ。
お前たちが油断しきったところを――。
「あぅあぅあー」
おっと、中々鋭い攻撃じゃないか。
お前、さては勇者だな?
よーし、ボクがお前に敗北を教えてやろう!
ボヨン、ボヨン!
「あぅー」
ほれほれー。
ふっふっふ。ボクはつよいんだぞー?
「ぅあー」
……おっと、もう夕方か。
今日はここまでにしてやろう。
すぐには殺さないぞ。
じわじわと追い詰めてやるからな!
勇者よ、自分の無力さを存分に噛みしめるがいい!
ボヨン、ボヨン!
『スライムは村の外に向かって跳ねていった』
残されたのは赤ちゃんとその母親だけだ。
「いい遊び相手が出来てよかったわね」
「あうー!」
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日も人間の巣に来たよ。
来たんだけど……。
人間どもはみんな魔王軍に殺されたみたいだ。
ボヨン、ボヨン。
『スライムは倒れた人間達に触れてみた。……誰も動かない。全員、ただの屍のようだ』
みんな死んでる。
すごい顔してるな。
きっと苦しんで死んだんだろうなぁ。
他人の不幸は蜜の味ってやつだね。
惜しむらくはこいつらが苦しんでいるところを直接見れなかったことかな。
やっぱり自分で恐ろしい目に合わせてやらないと楽しみが半減だよ。
そうだ!
今度は魔王のところに行ってみよう。
魔族は自分たちが世界で一番の悪者だと思ってるみたいだからな。
世界一悪いスライムであるボクの恐ろしさを教えてあげちゃうよ。
自分より悪い奴がいるって知ったときの反応が楽しみだ。
きっとぷるぷる震え上がるぞ―!
ボヨン、ボヨン。
『スライムは魔王城の方向に向かって跳ねていった』
残された者達はもう誰も動かない。
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日は魔王城に来てみたよ。
セキュリティはバッチリの物件みたいだけど、残念!
ボクのスライムボディなら少しの隙間さえあれば侵入できちゃうのさ!
さーて、魔族はいるかなー?
「魔王様バンザーイ! 魔族バンザーイ!」
どうやら宴会中みたいだね。
人間どもを殺したお祝いみたいだ。
みんなガンガンお酒を飲んでるよ。
よーし、それじゃあボクもさっそく悪いことしちゃうぞー!
ボクは極悪非道なスライムだからね。
さっきから悪いことをしたくてウズウズしてたんだ。
『スライムはこっそりと酒の入った樽に近づいた』
バレないように小さく穴を開けてっと。
よーし、お酒の中に毒を注入だ―!
これは天然の毒草からボクが直々に抽出した毒さ。
でも普通の濃度だと魔族には効きが悪いからね。
一ヶ月掛けて集めまくった毒をしっかり濃縮しておいたよ。
これならどんな魔族でも昇天確実さ!
無味無臭で遅効性だし、まさに『気がついた時にはもう手遅れ』ってやつだね!
ふっふっふ、我ながら惚れ惚れする悪さだよ!
……あれ? でも魔王はここにはいないみたいだ。
うーん、上の方かな?
バカと煙は高い所が好きっていうしね。
もちろんボクは違うよ?
『スライムは魔族達に見つからないように城内を探索し、ついでに見つけた飲料全てに毒を入れていった』
ここが最後の部屋か。
おっ! いたいた!
なんかすごい偉そうだし、コイツが魔王で間違いないね!
よーし、本を読んでる隙にグラスのワインに毒を注入してっと。
おっ! さっそく飲んだ。
飛んで火に入るなんとやらってやつだね!
あとはこいつらが死ぬのをじっくり観戦するだけさ。
他人の不幸は何回見ても飽きないものだよね!
『次の日の朝。魔族は一人残らず死に絶えていた』
うーん……。
やっぱりあんまり苦しまずに死ぬのはイマイチだったなぁ。
見てて全然楽しくなかったよ。
……まあ、いっか!
さてと、それじゃあ次の獲物を探しに行こうかな。
あ、そうだ!
せっかくだし、戦利品としてこの王冠を貰っていこう。
ボヨン、ボヨン。
『王冠を乗せたスライムは人間の村に向かって跳ねていった』
残された者達はもう誰も動かない。
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
色んな奴らを恐ろしい目に合わせるのが大好きなんだ。
今日は魔族達に殺された人間どもの墓を見に来たよ。
他人の不幸は何度見ても気分がいいね。
人間の巣がまるごと全滅だったからな。
あ、そうだ!
嫌がらせにこの王冠を飾ってやろう。
へっへっへ。どーだー、お前たちをぶっ殺した奴らの親玉が持ってた王冠だぞー。
こんな奴らに殺されてくやしいだろー。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
……ちゃんと仇は取ったからな。
ボヨン、ボヨン。
『スライムは誰にも見られることなくどこかに向かって跳ねていった』
そう……、もう誰もいない。
★
ぷるぷる、ボクはとっても悪いスライムだよ。
さーて、次はいったいどんな悪いことをしようかな!
ぷるぷる。ボクは……、悪いスライムだよ? 刺菜化人/いらないひと @needless
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