第28話 お風呂上がりにエプロン姿の先生でメンタル直葬
お風呂から上がると、そこには先生が普段使っているであろうバスタオルと(もちろん洗い立てではあるだろうけど)、新品の黒いシャツとトランクスパンツ、そして淡いピンク色のスウェットが綺麗に畳んで置いてあった。
(うわ……バスタオルから先生の匂いめちゃくちゃする)
頭や体を拭いていると、なんだか俺なんかが使ってしまって良いのだろうか、と不安になってくる。
(ていうか、このバスタオル普段使ってるんだよな……)
一瞬想像して、顔が赤くなった。
──だめだ、邪な考えは捨てろっつーの!
俺はそう自分に言い聞かせるようにぺしっとビンタして、意識を戻す。それから服を着てから(先生のスウェットは少しだけ小さかった)、脱衣所から出ると、料理中の先生がいた。
「あ、服のサイズ、それで大丈夫だった?」
髪を結ったエプロン姿の先生が振り向いて、にこっとして訊いてくる。
うわぁ……なんだよその格好。可愛すぎるだろう。先生が嫁になったら、毎日その姿見れるんだよな……いいなぁ。
「あ、はい。大丈夫です」
「そのスウェット、私からすると少し大きすぎたんだけど、やっぱり湊くん男の子なんだね」
「……そうですかね?」
男の子と言われて、少し嬉しい。男と認識されているのか、わからなくなってくる事が最近多いのだ。むしろ男と認識されてないからご褒美でキスもOKされるのかな、と思ってしまっていた。
「あ、あと……」
先生が俺の腰あたりを見て、急に言葉を詰まらせて、顔を赤くする。
「はい?」
「パンツ……」
「え!?」
「パンツ、それでよかった……? 私、男性の下着なんて全然わからないから、お父さんが履いてたようなやつ選んじゃったんだけど……他にも色々あったから、それでよかったのか不安で」
「あ、いえ! 自分もトランクス派なので、大丈夫です!」
「そ、そっか」
先生が顔を赤くして、それを隠すようにまた料理を再開した。
彼女は全く自覚がないのだろうけども、俺がそういった発言にどれだけ安心しているか、想像もしてないのだろう。さっきの話しぶりだと、きっとパンツ買うのも恥ずかしかったんだろうな、というのも想像できてしまうからだ。それが女の演技だと言われればそれまでだが、きっと先生はそんな演技などしない、と信じたい。
その彼女は今、鍋にシチュールウを入れている。
「夕飯、シチュ―にするつもりだったの。味が思ったより薄かったから、追加用のルウの買い出しに出たんだけど」
そしたら湊くんに会ったから驚いちゃった、と彼女は微笑んだ。
ああ、そっか。そのシチュールウが足りなかった御蔭でこうしてこの部屋に上がる事ができたのか……そう思うと、ちょっとその偶然に感謝してみたり……って、違う。どうやって過ごせばいいんだよ、この時間!
「湊くん、夕飯まだでしょ?」
「え、はい。まだですけど……」
「じゃあ、食べていかない?」
いやいやいや、先生。それはまずい。男子高校生の妄想と欲望がどれほどのものか、理解していないのではないか。先程から期待しないように自分に言い聞かせているが、これでは嫌でも期待してしまう。
「いや、でも……そこまでしてもらうわけには」
「いいから。どうせ一人だと食べきれないし、ご飯も二人分炊いちゃったから」
全く他意を感じさせないような笑顔で言われてしまうと、俺も「それじゃあ……」と頷くしかない。
「あ、もしかして味が不安だったりする?」
「いえ、そういうつもりじゃ!」
「そう? 湊くんのお口に合えばいいなぁ」
先生は無邪気に笑いながら、シチューをかき混ぜている。
ぐつぐつと言う鍋は、これでもかといくらい空腹感を刺激してきて、思わずお腹がくぅっと鳴ってしまった。
それを聞き逃さなかった先生が、くすりと笑う。恥ずかしい……。
「もうちょっと時間かかるから、待っててね。あっちの部屋にコーヒー淹れてあるから、寛いでて」
「は、はい……」
「あっ!」
先生が思い出したように声を上げた。
「どうかしました?」
「あんまり、じろじろ部屋の中見ちゃだめだよ?」
恥ずかしいから、と先生は頬を赤くして、上目遣いで言ってくる。
だから、いちいち可愛い事言ってドキドキさせないでくれ! こっちのメンタルが持たないから!
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