第44話 その日  ~ Finalmente l'ha trovato! 

 ゴールデンウィーク最終日。

 交差点では、いつものように少年・・・ヒロが手すりの上に座っている。

 その足元。山崎純子が行きかう人々をスケッチしている。


「渡辺会長は、純子ちゃんの家に謝罪に行ったんでしょ?」

「うん、来た。来なくていいって言ったのに」

「へえ、どうだった?」

「パパもママも驚いてた。でも、許してた。今度、パパが診察することになったって」

「それはよかった」


 渡辺会長は、先日の事件の後は人が変わったようだ。すっかり丸くなったらしい。

 ヒロは知り合いの風間高弘から、そう聞いている。


「こんにちわ、今日も二人ともいるわね」

「こんにちわ、怜子さん」

「こんにちわ」

やって来たのは、近くの交番に勤める榊 怜子。

「純子ちゃん、あの後は特に変わったことはない?」

「うん、大丈夫」

 警察官として、ちゃんと気遣う怜子に対しうなづく純子。

”まぁ、一応ボディガードがいるしね”

 ヒロは思い、感じている視線の方を見た。こちらを物陰から監視する男。

 陰から見守る、立花恭兵。

”脚見えてるよ・・・隠れるの下手だなぁ・・・”

 ちょっと不安ではある。


「ヒロ君も、大丈夫?」

「うん、僕は大丈夫だよ」

 キシシと笑う少年。

「ならいいけど、気を付けてね。そうそう、そろそろ熱中症にならないように水分とってね」

「はあい」

 二人に、にっこりと微笑んで去ろうとする榊 怜子。


 だけれども、怜子の胸の奥でチクリと感じるものがあった。

 何かわからない・・不安。


 振り返ってヒロを見る。いつものように交差点を眺めている。

 言い知れぬ不安に、もう一度声をかけた。


「ヒロ君?」

「ん?どうしたの怜子さん」


 ひっこり笑うヒロ。


「ううん、なんでもない。また来るわね」

「うん。怜子さんも仕事無理しないでね」

 笑って小さく手を振るヒロ。

 怜子も手を振ってこたえる。




「じゃあ、私はそろそろご飯食べてくる」


 山崎純子は、スケッチブックを持って立ち上がる。

「『レガーロ』は多分混んでるから佳織さんの喫茶店がおすすめかな」

「うん、わかった」

 




 昼のひととき。混雑する交差点。

 その交差点には、ヒロだけが残っていた。







 交差点を行き交う人々。

 もう何十万人という人々を見てきた。

 だけれども、まだ探している人は見つかっていない。


 その人は東京にいったということしかわかっていない。

 まるで、砂漠の中から一粒の砂を見つけるようなもの。

 だけれども、少年は諦めることもなく今日も行き交う人々を見つめていた。


 その目が、大きく見開かれた。



 少年は、ある女の子たちに釘付けになった。

 中学生か高校生と思われる女の子達3人。

 遊びに来たらしい。



 少年の目に見えているのは・・・

 同じ肉体に人間としての魂と、精霊としての魂の器との両方が存在する人間。

 長い人生で、そのような人物を初めて見た。それは、彼女から聞いていた通りの特徴。

 クンクンと空気中の匂いを嗅いだ。かすかに、魂の器から海の匂いがする。


 少年は思わずつぶやいた。


 『Trovato‼』


 女の子が、ちらっと少年を見た。

 でも、すぐに友人に連れられて通りの向こうに行く。

 少年は慌てることもなく、交差点の手すりから降り、足早に通りを渡った。





 山崎純子が戻ってきたとき、少年は交差点にいなかった。

「あれ・・・?」

 純子が知る限り、昼間に少年が交差点を離れることはいままではない。

 キョロキョロとあたりを見回す。

”きっとすぐ戻ってくるかな”

 そう思って、スケッチを再開する。

 だけれども、なかなか戻ってこない。

 夕方になっても少年は、戻ってこなかった。



 そして、次の日も。

 


 交差点に少年が現れることはなかった。

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