第3話 彼女と彼の朝読
ワタシは彼の事が好きなの? 恋しちゃってるの? だって先週転校してきた男の子だよ! でも、どきどきが止まらないのはどうして? なによりも、彼の心の声が聞き取れない……どんなに彼に集中しても心の声が聞こえない。そんなことは今までなかったのに。
ワタシは、彼の心を読む作業を止めて、読書中のクラスメート達に気付かれないように体をひねりながらそっと彼の方を向いた。
――彼は自分の本を机の上に広げたまま、じっとワタシを見つめて……いた――
え! うそ。
ワタシは、直ぐに顔の向きを元に戻した。
頭が一瞬ほわんとした。確かに彼はワタシをじっと見つめていた。ちょっと待って、今は朝読の時間でしょ? なんで自分の本を読まないでワタシを見てたの?
ワタシの頭の中は混乱と興奮でどうにかなっちゃいそうだった。やだ、ホントにくらくらしてきそう。心臓の鼓動は限界を超えるぐらいドクンドクンて唸ってる。隣に座ってる京子ちゃんにも聞こえるんじゃないかしら。
も、も、もう一回彼を見てみようかな。きっとさっきの視線はワタシの見間違いだよ。うん、そうに決まってる。
だって、『相手を7秒以上見つめる』というのは『その相手に好意を抱いている』という意味だって何かの本で読んだもの。
興奮している頭の中で、かろうじてそこまで考えてから、静かに息を吐いてすーっと新鮮な空気を肺に送り込む。そして意を決して、今度は相手から気が付かれないように脇の下の制服のスキマから覗くように、ゆっくりと彼の方を見る。
――やはり彼はワタシを見てる――
えー! もしかしたら7秒どころじゃなくて、朝読のあいだずっとワタシに視線を向けているつもりかしら? これはもしかしたらでなくて、絶対にワタシのことが大好きということなんじゃ……どうしよう彼のことをもっと知りたいのに彼の心が読めない。どうしよう、どうしよう。ドキドキ。
――そして、5分間が過ぎていく――
◇ ◇ ◇
どうしても彼女の心の声が聞こえない。やばいぞ。彼女はオレ以上の能力者なんじゃなかろうか。オレの心が読まれている?
オレは、必死に自分の頭を集中して彼女のことを考えた。余計なことを考えたら、そのすきを突いてオレの全てが読みだされてしまうという恐怖と、いままでに会ったことがないほど強力な能力者に会えたという畏怖の念がオレの頭の中に渦巻いていた。
彼女に対する思いをもっと集中するんだ。彼女の後姿をジッと見つめ続けることで、彼女の能力と戦うんだ。綺麗にブラッシングされて天使の輪が見えるほど艶やかな彼女の髪の毛とワンポイントの髪留め。ショートカットの髪の毛の隙間からちらりと見える、心持ち赤くなっている彼女の首筋。
もっと集中しろオレ。もっともっと彼女をガン見するんだ……
――と、彼女がそっと振り向いてオレを見た――
彼女と視線を交わした時、おれの心はいきなり、ビビビっとなった。
やばい、彼女が可愛い! どうしよう、今のオレの気持ちが読まれてしまったか。
彼女はオレの視線にびっくりして顔を元に戻してしまった。彼女の頬はなぜか上気しているようにほんのりピンクになっていた気がする。
どうしよう、このままでは彼女の能力に勝てない……あの子ってあんなに可愛かったんだ……ああ、このまま彼女の能力に押し切られちゃおうか?
いやいや、能力で劣っているのがばれたら後でなんて言われちまうかわからない。彼女の能力に負けないように、
――もっと集中して彼女を見続けるんだ、頑張れオレ――
――そして、5分間が過ぎた――
◇ ◇ ◇
「はい! 時間になったから、各々本をしまって。疲れただろうから、今から5分間トイレタイムね――」
担任の声が教室に響き渡る。
彼女と彼は、お互いを強く意識しながら、まるで惹かれるように二人そろってフラフラと教室から出て行った。
10秒間お互いに見つめ合うと、恋人になれると恋愛の本には書いてあります。
チョットした勘違いから、朝読の5分間もお互いを意識し続けたテレパスの彼女と彼には、幸せが訪れることでしょう……
了
想いが通じる5分前 ぬまちゃん @numachan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
企画もの参加作品リスト/ぬまちゃん
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 7話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます