34 ウルティコさんとレイナさんの再会
王城の庭にホバーカーが着陸すると、オリバーさんは再びロボットたちに指示しはじめた。
ロボットたちはてきぱきとわたしたちを箱の外に出す。
そしてわたしの荷物も外に次々と運び出していった。
「お前たちもついてこい」
オリバーさんについていくと、
その奥の方に客室がいくつか並んでいる。
「一番奥の部屋がウルティコ・ケリー、次の空いている部屋がアンジェラ・ノッカー。そして、一番手前にあるがレイナ・コーディの部屋だ」
「えっ、レイナさんがここに?」
ロボットたちが大勢移動する中、一番手前のドアを見つめていると、さっそく中から件の女性が飛び出してくる。
「もうっ、うるさいですわよ! さっきからいったい、もう少し静かに――」
レイナさんは寝間着のまま怒鳴り声をあげたかと思うとポカンと立ちつくしていた。
たしかにロボットたちの移動する音は、日が昇ったばかりのこの時間帯にしてはだいぶ騒がしかっただろう。わたしもいつもなら気持ちよく寝ている時間だ。だからレイナさんがイライラして抗議しようとした気持ちはよくわかる。
でも――レイナさんはわたしとウルティコさんの姿を見つけるや否や、一気に涙をあふれさせた。
「あ、アンジェラさん……それに、ウルティコ
ぎゅっと小柄なウルティコさんを抱きしめるレイナさん。
「き、キミは……レイナなのか? 本当に!?」
「それはこっちのセリフですわ~~~! 先生こそ、本当に先生ですの? わたくし、ずっとずっと探してましたのよ!」
「……」
感動的な再会の場面を、わたしも涙目になりながら見守る。
良かった。二人をもう一度会わせてあげられて。
これができただけでも交渉を頑張った甲斐があった。
そう満足していると、ロボットたちがわたしたちの客室から一斉に出てきて、廊下を埋め尽くした。その最後尾にいたオリバーさんが淡々と告げる。
「作業はすべて滞りなく完了した。自分はこれから撤収する」
「あ、ありがとうございました。オリバーさん。あなたがいなかったらわたしたち……」
「自分は上の指示通りに動いただけだ。あと、お前にはひとつ伝えておくことがある」
「な、なんでしょう?」
「これからの行動についてだが……日中はいつもの工房に勤務していていい。しかし退勤後は即、昨日の開発室に来るように」
「開発室……」
ウルティコさんが不思議そうにその言葉を復唱する。
しかしオリバーさんはそれに応えることなく、足早に去っていった。
わたしは微妙な空気になったのを切り替えるように明るい声を出す。
「よしっ、じゃあさっそく荷ほどきしちゃいましょうか!」
わたしはこの後すぐ出勤しなくてはならない。
幸い、荷物が少なかったのとレイナさんの助けもあって、片づけはすぐに終わった。
◇ ◇ ◇
「そうか、では今朝から王城に住まわせてもらっておるんじゃな?」
「はい。憧れの中層地区どころか、上層地区、しかも
昨日わたしと師匠は、別々の時間に工房に戻った。
その時にこれからの予定をあらかた話したのだが……。まさか本当に「引っ越し」をするとは、今の今まで師匠は信じられなかったようだ。
「通勤時間が大幅に短縮されたのがかなり快適ですねー」
「そんな悠長なことを言うとる場合か! 王城に住むなんて……市民の誰かに知られたらお前さん――」
「わかってます。わたしは何を言われても大丈夫です。でも、師匠まで言われたら」
そう。わたしたちはそれを少しだけ心配していた。
生きている人間を極力城から追い出した王族。
そんな彼らが見習い義肢装具士を専属技師にし、あまつさえ城に住まわせようとしているなんて。ゴシップ以外の何物でもない。
ステファン様に昨日言われたのは、ウルティコ氏をかくまっていることをカモフラージュするために多少はそういう噂を流させてほしいということだった。
それはかまわない。わたしはその代わり、ウルティコさんを敵国「
でもその城に住むことになった「理由」が――。
「ワシはいいんじゃ。もともと王族の専属技師になった時点でいろいろ言われておったからの。しかし、お前さんがクロード様に
「う、嘘ですよ? 本当は全然そういうことにはなってないんですからね?」
「だとしても、国民はそうは思わんじゃろう。お前さんはそれでもいいのか?」
「うーんと……別に、クロード様は嫌いではないですし……。それにどうひっくり返ったって身分違いなのでどうにかなるなんてこと、万に一つもないと思いますよ?」
「はあ……」
なぜか師匠には盛大にため息をつかれた。
「師匠? なんです? 言いたいことがあるならはっきり言ってください」
「お前さんもまだまだ子供じゃな」
「どういう意味ですかっ!?」
「兵器開発の件もそうじゃが……ま、せいぜい気を付けるんじゃな。何かあったらすぐにワシに報告せい」
「は、はい……?」
やっぱりよくわからない。
そうしてその日は一日工房での仕事を終え、日が暮れてから王城に戻ったのだった。
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