29 師匠の慧眼
翌朝。
わたしはウルティコさんを置いて、工房に出勤した。
「おはようございます、師匠!」
「おお、おはよう。アンジェラ」
裏口の扉を開けると、なんと作業場にはたくさんの荷物が届いている。
「どうしたんですか、これ。えっ、『
なんだか見覚えのある木箱だなあと思っていたら、蓋の上に『
「あの、これ、中身なんですか? もしかして……」
「ああ。それはワシが発注したもんじゃ。いやあ、今朝早く王様から連絡があっての」
「連絡?」
「お前さんが昨日納品したクロード様の新しい義手。あれをぜひ、自分用にも作ってほしいと言われてのう」
「ええっ?」
「それで急遽、それ用の素材を
「そんな。昨日の今日で、あれがすぐできるわけ……」
今朝注文があって、そのわずか数十分後に
いったいどういうカラクリなのかと問い詰めてみると、
「単に二週間前から発注しておいただけじゃよ。お前さんがあの素材を見つけたとワシに報告してきたとき、これは絶対に『売れる』とワシは確信した。王様もなにかしら反応すると思ったが……これだけ予想通りになるとはのう」
「なっ……」
この人は。先見の明があるとかないとかそういうレベルではない。用意周到過ぎて、逆に気持ちが悪くなるほどだ。
呆気に取られていると、師匠はほっほっと愉快そうに笑う。
「アンジェラ、ワシを誰だと思うておる。長年王家専属の義肢装具士を務めてきた、
完敗だ。
やはり師匠は一枚も二枚も上手である。そしてこの箱の数。おそらく王様の分だけではないだろう。
「一応確認しておきますけど、これ――」
「ああ、みなまで言うな。お前さんもすでに予想がついておるじゃろう。この店は、これから忙しくなるぞい」
「ああああ~~~ッ! うそおおおおっ!!」
やはり残りの箱は、工房のお客さんたち用のだったみたいだ。
師匠は、街の人たちにもあの新しい義肢を試そうとしているようだ。そうなったらもう王族だけじゃない、たくさんの人たちがあの新素材の義肢を使うようになる。
それはとても素晴らしいことだった。
ただ、そのスピードがあまりにも速すぎて、わたしの頭はなかなかついていけない。
「と、とりあえず……わたしもお手伝いします。今日は王様のメンテナンス日でしょう? それに、間に合わせるんですよね?」
「ああ、そのつもりじゃ。アンジェラ、手伝ってくれるか?」
「はい、もちろんです」
王様は四肢のすべてが義肢だ。なのでわたしたちは、それぞれ分担して組み立てていく。
右の義腕がわたし、残りを師匠が。
小一時間ほどするとすべての義肢が完成する。
「おお、我ながら良くできたもんじゃ。アンジェラの方はどうじゃ?」
「こっちもできました!」
「うむ。申し分ないの。ではお城に行くとするか」
師匠はさっそく、着替えをするために奥の部屋に行った。
わたしは作業場を片付け、義肢を詰め直した四つの木箱を裏口から外に出す。
店の裏手には師匠のホバーカーが停まっていた。その荷台に木箱を乗せる。王様もさぞかし喜ぶに違いない。そう思うと自然とにまにましてしまった。
「おーい、アンジェラ!」
呼ばれて工房に戻ると、わたしも着替えをするように言われる。
「え? わ、わたしもですか?」
「ああ。お前さんも一緒に来いとのおおせでな」
「はあ……」
王様がわたしに用事……というのはちょっと考えられない。とするとクロード様だろうか。たしかに昨日、わたしに会わせたい人がいるとかなんとかおっしゃられてた気がする。
わたしはいつもの深紅のドレスに着替えると、師匠とともに王城へ向かった。
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