22 新しい義手のお披露目

 わたしは工房に戻ると、大急ぎでクロード様の義肢を改造した。

 外装だけを交換すると言っても、上腕部の長さが三センチも変わっているので配線もその分長くしないといけない。

 しかし、あらかじめモノが到着したときのことを考えて準備していたので、スムーズに取り付けることができた。


「よしっ、終わったわ。さっそくお城に持っていかなきゃ!」

「おお、アンジェラよ。できたのか?」

「はい師匠!」

「どれどれ……」


 出来上がりを最後に師匠に確認してもらう。


「うむ。話には聞いておったが……かなり軽くなったものだのう。これは良いぞ。クロード様に試していただいた後、ワシも王様にすすめてみるかの」

「本当ですか、師匠!」

「ああ。ワシはずっと従来の素材で満足しておった。しかし、アンジェラはあきらめずに新しい素材を見つけてきおった。ワシはお前さんという弟子を持てて誇りに思っとるぞ」

「ありがとうございます、師匠」

「では、早く城に行っておいで」

「はい!」


 そうしてわたしはまた深紅のドレスに着替えて、お城へと向かったのだった。



 ◇ ◇ ◇



 そして王城内、応接室――。

 わたしはまたいつものようにソファに座って待機していた。

 するとしばらくして、クロード様がレイナさんを伴ってやってくる。


「待たせたな」

「お久しぶりですわね、アンジェラさん」

「クロード様! レイナさん!」


 わたしは立ち上がり、笑顔で二人にカテーシーをしてみせた。


「お二人とも、お久しぶりでございます。新しい義手が完成しましたのでお持ちいたしました」


 その言葉にクロード様もレイナさんも、期待のこもった眼差しをわたしに向ける。

 あらかじめ「新素材を試してみたい」という旨の電報を送っていたのだ。だからこの方たちも完成を心待ちにされていたのだろう。


 クロード様は右腕に何も付けておらず、少し短くなった上腕の断端部に包帯をきつく巻かれていた。


 わたしは持参したバックの横に置いておいた、細長い木箱を開ける。

 すると、その中からは木くずとともに真っ黒な義肢が現れた。


「おお、それか! 外装を新しい素材にした義肢というのは」

「はい。こちらファインセラミックス製となっております。焼成時の原料の混ぜ合わせ加減で、白にも黒にもなるようです。また性能もかなり変わってくると伺いました」

「ふむ。これはだいぶ黒い色だな……」


 木箱を覗き込んだクロード様が、感慨深げにそうおっしゃる。


「はい。真鍮のような派手さはなくなりましたが、こちらはこちらで洗練された漆黒の輝きを放っております。クロード様はどちらもお似合いになるかと」

「さっそく付けてみてもよいか?」

「はい。どうぞ」


 わたしは慎重に箱から取り出すと、それをクロード様に差し出した。

 左手で受け取ったクロード様はすぐにハッとされる。


「これは……」

「持ち上げてみてその軽さがお分かりになられましたでしょうか?」

「たしかに。これなら日々の負担がかなり軽減されそうだ」


 クロード様は、右腕に義手を装着される。

 義手の上部のソケット部分がぱっくり口を開け、上腕部が飲みこまれた。しばらくしてプシュッと内部の蒸気機関が空気を押し出し、密着する。


「おお、やはり軽いな」


 満足そうなお声を出されたクロード様は、さっそく手指を曲げ伸ばしされたり、腕をひねったりされた。どうやら筋肉を動かすための電気信号を皮膚上で読みとる機構も問題ないようだ。


「とりあえず、動きに大きな支障はなさそうですね。レイナさん、クロード様の断端部の具合はどうなんです?」


 わたしは安堵すると、さっそくレイナさんにクロード様の体の方の調子を聞いた。


「ええ、そちらも問題ありませんわ。手術は無事に終わりましたし、今はようやく皮膚が再生しはじめて、傷口付近が綺麗になってきたところですの。この日に間に合わせることができて良かったですわ」

「わたしも、間に合わせることができて良かったです。急にいい素材が見つかって注文したはいいけれど、完成させられたのは今朝でギリギリだったんですよ」


 レイナさんとお互いに進捗を報告し合い、笑い合う。

 そんな中、クロード様は窓側に向かって、いつのまにか腰の剣を抜き放っていた。その柄の赤い宝石がきらりと光る。


「え!? クロード様、何なさってるんですか!?」

「剣をうまく振れるかも試したい」

「そんな。治ったばかりですし、無理はお止めくださいませ」

「少しだけだ」


 そう言うと、クロード様は金色の籠状になった柄を持ち、まっすぐ正面に構えると目にも止まらぬ速さで数度振り回した。

 風を切る音が耳に届いたと思ったら、もう鞘に納められている。


「……す、すごい」

「御見それいたしましたわ……」


 わたしとレイナさんがその腕前に呆気に取られていると、衛兵ロボットが部屋に駆け込んできた。


「クロード様! オ忙シイトコロ失礼イタシマス。表ニ隣国ノ使者タチガ来テオリマス! 王様ニオ目通リヲト申シテオリマスガ、イカガイタシマスカ?」

「なんだと?」


 クロード様が穏やかだったお顔を一瞬で豹変させる。

 それもそのはず。やって来たのは、今朝方わたしが空港で見た石炭の国コールランドの軍人たちだった。

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