20 空港の市場で見つけたモノ
空港に着くと、すぐに
もし教えてもらってなければ、この広い空港の何十隻とある船の中から探すのは困難だったに違いない。
わたしが声をかけると、浅黒い肌の店長は白い歯を見せて笑った。
「おお、アンジェラちゃんじゃねえか。どしたー?」
「さっきお店に行ったんですけど、店長はこちらにいると伺いまして」
「おお、そうかそうか。何か探し物か?」
「ふふっ。さすがは店長。実は……」
わたしは例の義肢の軽量化の件を、店長にも相談してみた。
すると、店長は目をキラキラさせて――
「なんだお前ぇ、もう一人前の職人として働けるようになったのか!」
と、おかみさんとまったく同じリアクションをされてしまった。
この人たちホント似た者夫婦だなあ。
呆れるが、また話を脱線させられるわけにはいかないと苦笑いを浮かべる。
「あー、それもう、おかみさんに同じこと言われました……」
「そうかそうか。悪ぃ悪ぃ。でもまあ、俺たち二人ともアンジェラちゃんが見習いになった頃から知ってるしなあ……感慨深いんだよ」
「ありがとうございます」
わたしは気を取り直して、もう一度本題に戻った。
「とにかく、そういったわけで真鍮に代わる新しい素材を探してるんです。店長、何かいいのご存じありませんか?」
「んー、そうだなあ。ちょうどいまここでいろんな商品を見せてもらってたんだが……そうだ。これなんかどうだ?」
「え?」
見ると、そこには大量に積まれた木箱があった。
店長が輸送船の人たちに許可を得て、そのふたを開ける。中には黒っぽい配管がぎっしりと詰め込まれていた。
「これは……」
「こいつはセラミック製のパイプだ」
「セラミック、ってことは陶器ですか? それだと、すぐに割れてしまうんじゃ……」
「いやいや、これはただのセラミックじゃない。特殊な製法でできた、金属よりも硬くて軽い、夢のような素材なんだ。その名もファインセラミックス」
「ファインセラミックス?」
そしてその手順通りに作ると、この素材を生み出すことができたんだとか。
「こいつを使えば、義肢の世界に革命が起こるかもしれねえなあ」
「革命……」
「そうさ。この素材で義肢を作ったやつは俺が店を開いてからは一回も見たことがねえ。アンジェラちゃんがその第一人者だとすると……こいつはひょっとするとひょっとするぜ」
「あの、これで義肢の外装を作るにはどうしたらいいんでしょうか」
「そうだなあ……ちょっくらここの人らに聞いてみるか」
店長は
「ちょっと製法までは伝授できないって言われた。でも図面さえくれればあっちで作ってまた持ってきてくれるってさ。どうする? どうするよ、アンジェラちゃん」
「……この素材、熱にはどれくらい強いんでしょうか。あと、電気を通してしまったりしますか?」
これはチャンスだった。
でも、もし熱ですぐ変形してしまったり、電気を容易に通してしまうようだと義肢を動かすときに悪影響が出てしまう。魅力的な素材だが、そこだけは確認しておきたかった。
しかし、店長はニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
「ふふん、技師のはしくれなら、そうこなくっちゃな。実はな……耐熱性はかなりあるそうなんだよ。あと、電気を通すか通さないかも製法を変えるだけで変更できるんだってよ。なあ、もう一度聞くぜ? どうするんだい、アンジェラちゃんよ!」
わたしは箱詰めされた配管のひとつを手に取る。
軽い。圧倒的に軽い。そして手にとてもなじむ。なによりとても硬そうだというのが爪ではじいてみてわかった。
この素材なら、いける。
箱の前に書かれてある値段を見ても、高額過ぎない。
いままでの木や金属じゃ物足りない。でも、これなら……。
「わかりました、店長。いますぐ図面を持ってきます! そして、この素材で義肢の外装を作ってもらいます」
「ようし。ようやく決心したか。さっすがジョセフんとこの弟子、アンジェラちゃんだ! 出来上がるのには二週間ほどかかるらしいが、間に合うか?」
「えっ、二週間!?」
出来上がりの期間についてはまだ聞いてなかった。
でも、ぎりぎり……本当にぎりぎりで間に合うかもしれない。
「えっと……。に、二週間後の朝イチに、受け取り一緒に来てくれますか……?」
ダメもとで頼んでみる。
すると、店長はまた白い歯を見せて二カッと笑った。
「おう、まかせとけ!」
であればもう迷う必要はない。
わたしは大急ぎで工房に図面を取りに戻ったのだった。
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