第69話『黒騎士対蒼騎士(3)』
◇◇◇
記憶とか見なけりゃよかった。
まさか酒屋のオヤジにこんな重い過去があるとは、ってかやっぱりコイツ若い頃イケメンだったそして綺麗な奥さんと娘さんがいやがった。
まっそこに嫉妬を燃やすのは後にして……。
重い、重すぎるぞ酒屋のオヤジ、そんな重い過去の復讐とかは闇堕ちヒロインキャラとかでして欲しい、それならこの中年騎士も速攻で協力(禄でもない事ならしないけど)して攻略対象としてせこせこと働くと言うのに。
それがアゴヒゲナイスミドルじゃ本当にただ……何も言えねぇ~っとしか言えない私だ。
私も両親が死んでるし少しは彼の気持ちは理解出来るとは思うけど……まぁっ両親と奥さんと娘さんじゃそりゃあ違うんだろうけどさ。
そこはどっちが上とか下とか言い合うのはなしだろう、不毛である。
彼は帝国なるもの凄いイキリまくりな大国の絶対的な理不尽によって家族を失った。
私のは社会全体が病んでいってその目に見えない絶対的な理不尽の結果として家族を失った。
……だからこそ、私は彼の過去に、やはり同情をしてしまったのは事実である。
私が1人になった時、私には何の力も無かった。
だから私はただただ現実を機械的に消化して行くしかなかった。
だがもしも、もしも彼の様に他者を圧倒する力なんか持っていたら……。
彼に取り入った邪教とそれが信仰する存在、あんな人間社会なんて容易く消し飛ばしてしまえる様な存在が実在する世界にいたとしたら。
果たして私は彼と同じ道を行かないと断言出来るだろうか?。
その否定できない迷いがあり。私は剣を地面にさして拳で彼の相手をする事にしたのだ。
彼を力でねじ伏せるだけに留まり、殺さない様にするのか。それとも殺すのか。
その判断をする時間が欲しかった。
まっ彼の生死を赤の他人である私がどうこうなんて傲慢以外の何者でもない。しかしそれでも、ここで私が彼と出会った事にも理由があるとしたら…。
やはり私が彼を止めるしかない。
私の硬い拳が何度も彼の身体を殴打する、無論殺さない様に加減はしている。
それでもかなりのダメージがあるだろう、いい歳をしたオッサンを殴りまくる事に良心がガンガン削られる。
あっ鎧が上半分砕けてしまった、まぁいいや、ついでに腕とか肩の装備も破壊しとこ。
連続パンチ!オヤジの鎧の大半が吹き飛んだ、無論下の方なんて攻撃しない。中年の情けである。
全く同じ様な過去を背負った者同士とか、そんなゲームみたいなファンタジー展開なんてないよ。
ただ過去に少し似たような痛みを味わった経験が重なっただけである。
前の世界でも、当然だけどこの世界でも理不尽極まる別れを経験している人間なんてゴマンといる。
モンスターとか盗賊なんてのが跋扈するこの世界だ、私の故郷と比べればそんな人々が遥かに多いだろうと考えるのが普通だろう。
ただそんな人々の中でこの酒屋のオヤジを止められるのが私だけだったと言うだけの話だ。
そして彼をどうするかの答えは………既に出ているんだよ。
……………私は彼を殺すよ。
私の
しかしそれだけだはもちろんない、この魔法は相手の精神、心をハックする魔法である。
ハックしたパソコンならそのメモリーとかも見れるたりするだろう?要は相手の記憶や過去にあった出来事を覗く事も出来るんだよ、その気になればね。
だから私は彼の過去についても大部分を知った。
プライバシーの保護も糞もない魔法と言う、不思議と理不尽の化身みたいな力でね。
確かに彼の故郷と家族との過去には同情の余地がある、しかしそれ以降の過去について触れるなら。残念ながら彼は過ちを重ねすぎた。
そうっ彼が邪教の使途とやらになってからの過去である。黒騎士として彼が行ってきた事だ。
詳しい言及は避けるが、彼がこの迷宮都市で何をしょうとしていたかを考えれば想像は容易い事だろう。
彼は以前私に話していた言葉通り10年以上迷宮都市に住んでいた、その期間で仲良くなった人もいただろう。世話になった人もいただろう。
しかし彼はその迷宮都市で犯罪組織を作り、ダンジョンを破壊して迷宮都市を滅ぼそうとしている。
つまりは、とうに彼は踏み越えてしまっているだよ、その境界線を。
故に例え私が彼の過去を知っている事を語り、説得なんてしたとしても絶対に彼は止まらない。最早止まれないからだ。
鎧が半分以上なくなってるのに彼は攻めを緩める気配がない。ってか更に攻撃的になってるな。
完全に後先なんて考えてもいない。やぶれかぶれか、それとも……。
満身創痍となって尚も私に襲いかかる、速い。
マンガとかで脱力してもの凄い力を出したりスピードが上がったりするのを見たことがある、今の彼が正にそれだ。
ボロボロの槍を的確に私の急所を貫こうとする立ち回りと更に増していくスピード、それに対応できるのはこの中年ボディがチート仕様故であろう。
無論私は
彼が素手や蹴りをしてきたら当人の手足がオシャカである。
だから全部無視しても問題もない、ただそれを今はしたくないと言う私の心情が理由である。
彼の攻撃に対して私は紙一重で回避したり腕で受け流したり防いだりした後、必ず殴打で反撃する。
突きを流して掌底を繰り出す、薙ぎ払いを受け止めて蹴りを放つ。向こうが躱して背後に回り込んできた、裏拳を顔面にかます。
そんな戦闘行為を結構な事、繰り返した。
私は無傷。彼はボロボロだ。
…………それでもやはり、彼は止まる気配はない。
ここで1つ話すことがある。
言ってしまうとアレだが、そもそも彼ら邪教一派が私に勝てる可能性は殆どゼロである。何故か?と聞かれたら答えは簡単だ。
彼らが邪教一派として信仰してる謎の存在ってぶっちゃけ魔神イシュリアスの同僚なんだよね。
ほらっエレナちゃんが話してくれた邪神竜だか悪神竜だかってヤツの子分とか眷属って連中。
神話に出て来てたって言う悪役側の雑兵担当だ。
この世界で広く邪教扱いされる時点でこの世界の神とは中が悪い連中と言う事、要は神話の世界で神々とドンパチやった悪神竜なる一派が妥当な線だと言う事だ。
実際に彼の記憶を覗いた時に伺った顔を隠したローブ野郎、アレはイシュリアスと近い魔力を感じたので間違いないだろう。
………んでそんな存在から加護とやらを受けたのが
詳しい実力差とかは知らないが、要はその信仰する存在と同格(多分だけど)のイシュリアスを1対1でフルボッコにした私が、ちょこっとだけその邪神だか悪神竜の子分か下っ端だかの力を借りただけの下の下の下っ端に負ける訳がないのだ。
よりにもよって私がダンジョンにいるタイミングでダンジョンを破壊しに来た彼らの運のなさと言うか何というか……まさかあの夜叉桜なる黒髪美人、これを見越して?っとか変に勘繰ってしまうくらい酷い話である。
犯罪組織なんて私に喧嘩売ってしまったタイミングの悪さとかとんでもないよな。
そんな風に彼とその仲間達の色々とアレな感じな部分にまで同情をしていた私だ……おっと今の連続攻撃はヤバかったな。
回避と同時に一瞬で数発のパンチを叩き込む、彼は
また吹き飛んでいった。
「……………………」
そしてまた立ち上がる、戦意は未だに健在だむしろ気力は益々高まっている様に見える。強大な敵と戦って高揚してるとかか?。
いい歳をしたオッサンが変な黒歴史を更新してんじゃないよ、それに付き合って全身鎧で応戦してる黒歴史更新おじさんの被害を考えろよな。
しかしどの道これ以上戦いを引き延ばすのも限界だ、殺すと決めておきながらこうもズルズルと……自分自身を嫌いになりそうだ。
ん?こちらに槍を向けてきたな、彼を見るとこちらを真っ直ぐ視てきた。
……何かを期待している?イヤッアレは待っているのか?何を。
そこまで考えて私は先程の心意看破の魔法で知った情報の事を思い出した。
そうっ大国に復讐して滅ぼすとか神様に直談判させるとかは無理だけど、彼の最後の願いなら私でも叶えられる。
「……………フッ」
………まぁ多少大根なのは勘弁な、『最強』なんてキャラ付け私には荷が勝ちすぎるからね。
私は地面にさしてた剣を抜いた。
すると彼は口の端をニッとして笑った。
「……どうかしたんですか?」
「イヤッ少し気になってな、アンタ、その気になれば一瞬で俺くらいやれたんだろう?何でこんな無駄に長い戦闘なんてしたんだ?」
「……………」
「……黙りかい、まっ別に構わねぇよ俺もそんな事にはさして興味もねぇし。ただこれだけは言っておくぜ」
酒屋のオヤジ事、ラグナは私を見据える様にして言葉を発した。
「次の攻撃が、俺の最後の攻撃だ。これ以上はねぇし後に余力なんてのもないから……遠慮なんてすんなよ」
「……………」
フッ私の迷いなんてお見通しと言う訳ですか、やっぱり彼は本当に腕も立つ超一流の騎士だったんだろうな。
もしも、なんてのは野暮なのだろうな。
彼が最後の攻撃だと言うのなら私もまた次の攻撃で最後にするとしょう。
もちろん『最強』の攻撃を持って応える。
私に掛けられた魔法鎧が膨張する、それほ私の身体を包み込む卵の殻の様な形になって、そのテッペンからヒビが入った。
この魔法鎧の魔法って掛けた本人の意思でも魔法の解除が出来ない謎の仕様なのは何で何だろうか。
まっそれについては保留だ、やがてヒビは広がり魔法鎧全体に広がった。
そしてパキッという音がすると魔法の鎧は粉々に砕けた。
その瞬間私の身体を青いオーラの如き、凄まじい魔力が包み込んだ。
向こうさんも私の力に勘づいたのだろう、身体から冷や汗が吹き出ている。この期に及んでビビらないでくれよ?。
本来なら私の本当の力をこの世界で解放するとか下手をすると、それだけで世界は消し飛ばしてしまうので魔法鎧の破壊を避けてきた私だ。
しかし中年も日々すくすくと成長しているのだ、本気パワーを解放しても三分位なら世界に悪影響を与える事なくこの青い魔力をコントロールして、魔法も魔力も扱える様になったんだよ。
そもそも自分の力の加減が下手で世界を滅ぼすとか、自分の力を碌にコントロール出来ないだけの半人前の魔法使いってだけで恥ずかしいだけである。
本当に少しずつだけど1人でシコシコと努力を……コツコツと努力を重ねて早口言葉一人前の魔法使いになってやるぞ。
しかし今は精々1度か2度魔法を使うのが限度だ、だからこそそれで彼の全力に応えたい私だ。
「行くぜっ!オラァアアアアアアアアアアアッ!」
意を決したラグナは壊れかけた槍を真っ直ぐにこちらに向けて突っ込んで来た。
最早ワザ名とか叫ぶ余裕もないのか、ただ雄叫びを上げての突貫である。
しかしそのボロっちぃ槍の先から再び黒い魔力が出現した、魔力は形を槍の先の様に鋭利に変形していく。
ラグナは更にスピードを上げる、今まででトップのスピードだ。めちゃくちゃ速い!。
黒い彗星の様になった彼に私もまた全力の一撃をかます。
剣を持って居合いの様に構える、溢れる青い奔流を剣に一点集中。
【今ここに、世界の境界すら切り裂く絶対剣を。
私の持つ騎士剣の刃が青き光に変わる。
その光は徐々に大きくなっていく、騎士剣から大剣サイズに、そして更に大きくなる。
ラグナ、そっちが最後にワザ名言わないなら、私の方が代わりに言うぞ?。
光輝く剣を振るう。
「……
向こうさんを真似て漢字で言ってみた、けどこの言葉の意味って目の前の困難を頑張って乗り越えたらその先には青空が広がってるよって『励ましの言葉』だ。
バトルとか全然関係なくてゴメンね、ノリだけが私のネーミングセンスを支えるのだ。
そして振るわれた私の剣から放たれた極大の閃光は、まるであの宇宙戦艦の波動砲が如くドォーンっと発射された。
こちらの攻撃が大海の
青い光の波が、か細い黒い光を消し飛ばした。
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