アドベンチャー・レボリューション・アベンジャー

あめのちあさひ

第1話

人生は冒険や!ここは戦場や!暴力の嵐の台風の目の最前線や!!撃て!ひるむな!!撃て!!!撃ちまくれ!!!撃ち続けろ!!!!


「敵機直上ッッ!!爆撃きますッッッ!!!」


ゑッッッ?!?!?!対空防禦!!!!みんな伏せ!!伏せ!!伏せ!!!!!ぐわあああああああああああああ

………………くそ!くそ!くそ!!何人残ってる!?おい!返事せんかい!おい!!くそ!!全滅か!!!!くそったれの戦争め!!!!!



「じゃ、あさひ先生、つぎは冒険モノでいきましょう。ナントカ王になる! ってマンガも流行ってますし、『冒険と友情と恋と勝利』、表向きのテーマはこれで。でもまぁ、いまどきそんなんじゃ売れないんで、真テーマは『冒険と劣情と裏切りと破滅』でよろしくお願いします。では、しかるべく」


文芸雑誌「青年革命」の担当編集者、湯田はそんなふうに言いたいことだけ言ってトットと席を立ってしまった。新企画の打ち合わせにきたのは神保町の喫茶店である。ひとり残された僕は冷めた珈琲の暗黒の水面にお先真っ暗な人生を重ね合わせつつ、なかばたったいま決まった新しい連載小説のプロットを思案しながら、しかし心地よい煙草の紫煙たゆたう店内では創造的な集中力を保たせることができず、気が向かないこころはそぞろに、あたりの古書店に行って好きなものを買いあさりてえなあという気持ちに流れていくのだった。「青年革命」は文芸雑誌とは名ばかりで、エログロナンセンスを詰め込んだ令和版のカストリ雑誌である。僕も幼いころは「人生は冒険や」と思っていたよ。革命ができると思っていた。文学で世界が変えられると思っていたんだ。いまはどうだ。小説一本の稼ぎじゃ三日も生きられねえ。カストリ雑誌に半幽霊アイドルグループ「地獄坂4.6」のライブレポートや、宗教法人「冥府魔道会」の潜入調査ルポや、サラ金殲滅戦争の従軍記者をするなどの、生命に関わる取材記事をまとめる仕事を引き受けることで、かろうじて小説の連載もさせてもらっているありさまだった。しかも小説の人気は最下位。これまで読者からきた最も長文の感想は「クソおもんない」だった。


「新連載のテーマは冒険か、冒険とか興味ねえよ、僕はどこにも行きたくねえんだ。置かれた場所で咲きたいよ。でも書かなきゃ死ぬしなあ……」


人生は冒険であり社会は戦場であり毎日が斗(たたか)いであり、僕は永遠に浮上したくない潜水艦のような生活をしていて、立派な社会生活を送る人間たちから傷つけられてきた古傷が決壊して艦内は有毒ガスも発生しつつあり、そろそろ危険を冒して浮上しなきゃいけないかなぁと思っているところに、駆逐艦がドン亀潜水艦を狩るがごとく、ヤバヤバ女が爆雷を投下してきた。人生は冒険か? いやいや人生は地獄なのではないか?


「あさひくんこんにちは。さっき湯田さんからここにいるってきいて。あいかわらずのイジケ虫だね。新連載決まったんでしょう?はしゃぎなよ」


ぬばたまの夜の闇のごとき黒のツー・ピース、真っ赤に染めた毛先をなびかせて、あたりに撒き散らす死を纏った駆逐艦女とでもいおうか、カストリ記事雑誌への寄稿仲間でもあるペロ子ちゃんが現れた。


「う、ペロ子ちゃん……君はどうしてここに……?」


「わたしは原稿料の交渉に行ってきた帰りだよ。『あなたを殺す一部始終のレポートを書いたら原稿料はおいくらくらいになりますか?』って刃を向けながらきいてみたら、『ただちにいくばくか原稿料を包むので命ばかりはカンベンしてほしい』というので、一文字も書かずに原稿料ゲットしちゃいました!」


「それは原稿料とは言わないのでは……」


「んんッ?」


馬の耳に東の風、ペロ子ちゃんのキラキラ光る笑顔には敵わないよ。


「それより、あさひくんの冒険のはなしをきかせてほしいな〜。プロットはあるの?」


「あぁ、さっきちょっと考え始めていたんだけどね、手違いで戦場に送られてしまった男の物語なんだけど……」



人生は冒険や!

人生は冒険やってば!

人生は冒険なんやて!

人生は冒険やから!

人生は冒険やと思う!

人生は冒険に違いない!

人生は冒険やんな!?

人生は冒険ちゃうんか!

人生は冒険やったっけ?

人生は冒険か?

人生は冒険ちゃうかもしれん!

人生は冒険ちゃう気がしてきた!

人生は冒険ではないです…………

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アドベンチャー・レボリューション・アベンジャー あめのちあさひ @loser_asahi

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