008 唯、お姫さまと話す。
「ユイさんは本当にお強いんですね。あんなに大きなモンスターを相手に、たった一発の魔法で…。」
「本当にたまたまで…魔法もあれしか知らないですし…。」
「ご謙遜を。私にはわかります…本当は高名な魔法使いの方なのですよね。ねぇ、タンク。」
「はい、姫様。私もそう思います。」
「いえ…ですから…。」
お姫さまと話してる私。
初めての経験なのはもちろん、こんなに褒められると…もう大変。
ほっぺも耳も真っ赤だし、緊張しっぱなしで会話の内容が全く入ってこない。
「姫様。そろそろヒマワリの町に到着となります。」
「わかりました。」
町まであと少しといったタイミングで、衛兵さんのひとりが駆け出した。
―――あぁ…先ぶれっていう役なのかな?
詳しくは知らないけど、「偉い人が来るよー」って知らせる役割だと思ってる。
そんな先ぶれさんに対応してる門番のお兄さん。
話は伝わったみたいで、門番さんが飛び上がって町へと走っていった。
お姫さまに聞いてみると、町長さんに知らせに行かれたのでしょう…と教えてもらえた。
そっか、町長さんとかいるんだよね。
当たり前のことなんだけど、異世界すぎて忘れてた私。
「ユイさん、申し訳ありませんが…こちらで少しお待ちいただけますか?」
「はい。…あの、立ってた方が良いですか?座ってた方が?」
「ふふふっ、大丈夫ですよ。お好きなように。」
優しい微笑みを浮かべてくれるお姫さま。
ちょっとずつ緊張はとけてきたけど、さすがにお姫さまが立ってるなか…座ってるのは変な気がする。
しばらくすると、白いおひげをたくわえた男性がやってきた。
その後ろには…。
―――ギルドマスターさん!?
理由はわからないけど、反射的にお姫さまの後ろに隠れた私。
「ガーネット姫殿下。ヒマワリの町へようこそお越しくださいました。私、この町の町長を仰せつかっております…パンプキンと申します。以後、お見知りおきくださいませ。こちらはギルドマスターのクロックです。」
深々と頭を下げた町長さん…もとい、パンプキンさん。
紹介されたクロックさんも、丁寧な所作で頭を下げてる。
―――わ、私…大丈夫だったのかな…?
お姫さまへの無礼を心配し始めた私。
今更だし社交界の礼儀作法なんてわからないし…仕方ないのかもだけど、結構ヤバいことやってた気がする。
あ…言葉遣いも良くないよね…。
―――おヤバいこと…?いや、違うな…。
焦りやらなんやらで、大混乱な私。
あたふたしていると、クロックさんと目が合っちゃった。
「ご紹介にあずかりました、ギルドマスターのクロックです。…って、ユイ殿!?」
見つかっちゃった…。
何と説明しようか迷っていると、タンクさんが助け舟を出してくれた。
「実は道中、モンスターに襲われてな。危ういところをユイさんに助けていただいたのだ。改めてお礼申し上げる。」
ぞろぞろと集まっていた町の皆さんから、
「ユイさんって…クロックさんに勝った魔法使いだよな?」
「そうそう。ジャイアントさんも倒してたし、あのお姿はあくまでも世を忍ぶためのものらしいぞ。」
「お姫さまを助けちゃうなんて、やっぱり名のある冒険者なんだ。」
否定したいのはやまやまなんだけど、今はそんなタイミングじゃない。
ひとまずはペコリと頭を下げて…恐縮しっぱなしの私。
ちなみにクロックさんからは…熱いキラキラの視線が届いてきてる。
お姫さまの前じゃなかったら、大変なことになってた気が…。
「では、ガーネット姫殿下。
パンプキンさんが
「ユイさん、こちらへ。」
「…は、はい。」
手を引かれて、そのまま客車に乗りこむ私。
衛兵さんのひとりが咳払いでとめようとしてたみたいだけど、お姫さまのジト目な視線一発で明後日の方を向いてた。
というわけでわけもわからず馬車に乗った私。
「あの…良かったんですか?私まで乗せてもらっちゃって…。」
「もちろんです。恩人にお礼をしないなどとなれば、それは王家の名折れです。ユイさん、何かお望みのことはありますか?非力な私ですが、私にできることであればなんなりと仰ってくださいまし。」
「いえ…私はただ、冒険者として当然のことをしただけで。」
お姫さまにお礼を言ってもらえただけで、十分すぎるというもので。
「ユイさんはお強いだけでなく、お心まで清いお方なのですね。」
どんどんと話が大きくなってきちゃうので、ちょっとだけ強引に話題転換。
「あの…お姫さまはどうしてヒマワリの町へ?」
思いつき程度の質問だったけど、思わぬ方向へと話が進んじゃった。
なんでもお姫さま、国王であるお父さんから「冒険者として町の防衛の経験を積みなさい」との命を受けたそう。
トラはかわいい我が子を谷に落とす…とかなんとか、そんな言葉を思い出していたんだけど、現実はそんなものじゃなかった。
「私には兄がおります。…要するに、次期国王はもう決まっておりますので、私は政略結婚のコマでしかありません。」
なんとも悲しいことを口にしたお姫さま。
なんでも嫁ぎ先は武勇で名をはせたお家みたいで、それなりの心得が求められているのだそう。
「お姫さま…。」
「ごめんなさい…こんな暗い話をして。そろそろ館のようですね。」
強引に話題を変えるように、明るくふるまったお姫さま。
でも、表情は暗いままだった。
■
―――すご…。
豪華絢爛な装飾の数々、なんとか宮殿みたいな柱。
壁にかけてある絵は…私の目には横棒が一本描かれているだけに見えるんだけど…きっと目ん玉飛び出るくらい高価なものなんだと思う。
館はまさに
お姫さまの周りをタンクさんたちが固めているので、対面する場所に腰をおろした。
「先ほどはお助けいただき、ありがとうございます。お礼を差し上げなければならないのですが、
タンクさんに目配せをしたお姫さま。
すると、タンクさんはカバンの中から高級そうな紙を取り出した。
それを受け取ったお姫さま、何か書いてる。
「こちらは王家の
「ありがとうございます。」
丁寧にお礼をして、ありがたく添え状を受け取った私。
これからはもし怪しまれてもこれを見せれば良いわけで、私としても結構助かるものだと思う。
―――異世界転移のチートアイテムかも。
誇張なく、それくらいのレベルだと思う。
添え状は例のごとく自動収納されたみたい。
「ユイさん。私はしばらくこの町におります。もしよろしければ、お茶なりとも。」
■
お姫さまに見送られ、館を後にした私。
何か忘れてる気がするんだけど…。
「あっ!そういえば依頼の途中だった!」
いろいろあって、依頼のこと完璧に忘れてた。
大慌てで胸ポケットから依頼票を取り出し、制限時間とかを確認する。
「よかった…制限とかはないんだ。えーっと、ギルドに向かえばいいんだね。」
依頼を達成したら、ギルドに報告するのがこの世界のルールみたい。
そのまま一応小走りでギルドへと向かった私。
途中、たくさんの人に声をかけてもらえて…テンション爆上がり。
呼び止められまくって、ギルドに着くまで30分もかかっちゃった。
―――でも…なんだかうれしい。
おだてられたら空も飛んじゃうくらいな私。
音痴なスキップとへたっぴな鼻唄の二重奏でもって、ギルドの扉を開いた。
「ユイ殿。」
「はい。」
ギルドに入るなり、クロックさんに呼び止められた。
ちなみに「殿」呼びだけど…もう諦めました…。
「つい先ほどガーネット姫殿下から書状が届きまして。こちらをユイ殿に、とのことでした。手続きをお願いしたい。」
「お姫さまから。」
クロックさんの手には、スターがキラキラと輝いていた。
魔法を一回使っただけで…なんだか申し訳ない気がする。
そんなこんなで…まだレベル1の新人な私、スターを2つも持つことになっちゃった。
「では、私は町長に呼ばれておりますので。これで失礼します。」
「ありがとうございます。えっと…お気をつけて。」
師匠呼びはやめてもらえたものの、まだまだ
クロックさんはこの町のギルドマスター。
ギルドはもとの世界でいう役所みたいなところで、そこのトップがギルドマスター。
ちなみに私、レベル1の冒険者。
―――おかしい…絶対おかしい…これがバグステータスの影響…。
ひとまず受け取ったスターを冒険者証に張りつけてみた。
ちょっと豪華な雰囲気が出てきて、満足な私。
「おとと…。」
うれしくてどたばたしたら、ステータスが開いちゃった。
そして、驚きの事実が発覚する。
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