005 唯、有名になる。
試験が終わり、ルンルンでギルドに戻った私。
ちなみに試験官さんはというと…お兄さんに支えられてた。
どうやら腰が抜けちゃったみたいで…。
―――な…なんだか申し訳ない気が…。
ギルドホールに入ると、みんなの視線を感じた。
「あの子だ。クロックさんに勝ったらしいぞ。」
「まじかよ、歴戦の冒険者でも苦戦したんだろ。」
「本当は超有名な冒険者なのかな。」
「いや、あんな子ども知らねーよ。」
最後の意見だけでも否定したいんだけど、受付の人に呼ばれてるので、先を急ぐ。
―――有名人…になっちゃったのかな?
できれば平穏な生活を送りたかった。
でも、異世界転移系のアニメとかにならうなら、それは無理だとも知ってた私。
―――バグって…要するにチートだもんね。
ため息を飲み込んで、受付にたどり着く。
「ユイさん…あなたは一体…?」
「いや…私はただの…冒険者になりたいひとです。」
よくわからない返事をしちゃったけど、その言葉通りなのが私。
すると裏口からさっきの試験官さん…クロックさんというらしい方が戻ってきた。
ズンズン足音、なんだか怒っている気がする。
―――やっぱり試験場を半壊させたのまずかったかな…?
でも…あれは不可抗力で…。
「ユイ。いや、ユイ殿。あなたの弟子にしていただけませんか。」
「へ?」
想定外すぎる言葉のオンパレードが飛んできた。
今、弟子って言わなかったっけ…?
理解が追い付かず、ぽかんとするしかない私。
そんなことお構いなしなクロックさんは、言葉を続けた。
「我々の知らない魔法で正体をお隠しになられているのでしょうが、私にはわかります。高名な魔法使いの方とお見受けしました。」
「ち、違います!」
一生懸命、否定の言葉をはさんだんだけど…クロックさんは全く気にしてくれない。
「そもそもレベル1の人間が、上級魔法であるファイア・バーストを受けてノーダメージなどあり得ません。」
ほら、やっぱり試験では使っちゃダメな魔法じゃん。
なぜかここだけ冷静にツッコミをいれた私。
「それにあなたがお使いになられたファイア・バースト。若干詠唱が異なったように聞こえました。おそらく私のまだ知らない魔法なのでしょう。」
「いや、あれは…。」
ちょっと噛んだだけなんです…掘り返さないでください。
「私はこの町を守るため、もっと強くなりたいのです。ぜひご教示いただけませんか。」
「クロックさん…。」
最後は…なんだかかっこよかった。
でも、弟子なんてとんでもない。
そもそも私、本当にレベル1だし…無一文だし。
「へえ。クロックに勝ったのか、お嬢ちゃん。」
背後から声をかけられた。
重低音が響くボイスに、ちょっと圧倒された私。
周りも少しざわついてる。
「俺の名前はジャイアント。Bランクの冒険者だ。この町でしばらくやっかいになってる。この町で一番強い俺と、決闘してくれないか?」
「け…決闘!?」
無理無理無理無理…絶対無理。
なんかすごい武闘派な感じの人だし、筋肉ヤバいし…。私の二の腕何個分!?
混乱のあまり、とりあえず自分の二の腕をぷにぷにしてみた。
自分でも、何してるのかわかんない…。
「ジャイアント卿。無礼であろう。こちらは高名な魔法使いであらせられる。」
てんやわんやで冷や汗たらたら流してると、クロックさんが助け舟を出してくれた。
…舟をちょっと間違ってるけども。
「いいじゃねーか。そうだ、俺に勝てたらスターを1個やるよ。」
「…スター?」
単語の意味がわからず、クロックさんに尋ねてみる。
「スターは、冒険者のランクを決めるものです。冒険者としてのランクをあげるためには、スターを集めることが重要となります。」
「な、なるほど。」
どうやら冒険者さんのランクは、このスターの数で決まっているみたい。
一定条件を達成するとスターがもらえ、その数に応じたランクが認定されるそう。
ジャイアントさんがこちらに見せている冒険者証には…キレイに光るスター10個も並んでいた。
「まじかよ。スター1個とるのに最低でも1年かかるっていわれてるぞ。」
「俺なんか10年冒険者やってるけど…まだたったの2個だぜ。」
「あいかわらずジャイアントさんのを見ると…憧れるというか、現実を思い知るというか…。」
驚きやらなんやら様々な声があがるなか、私は断る口実を考えてる。
―――いくらバグとはいっても、あんなマッチョな人に捕まれたりしたら…絶対ヤバい。
冷や汗とまんない。
どうしよう、異世界初日…困りまくりな私。
―――…。
クロックさんに視線を送った私。
助けてください。
その視線を受け取ってくれたクロックさん、またしても舟を出してくれた。
「師匠、この勝負受けましょう。」
「えっ!?」
今度は、舟の種類が思いっきり違ってた。
何がどうしたらそうなるのか…しかも師匠じゃないし。
「うぉーっ!決闘だーっ!」
「すげー、ジャイアントさんに挑むなんて!なんて命知らずなお嬢さんなんだ!」
「特等席を確保だっ!」
クロックさんの言葉を受け、遠巻きに見ていた人たちまでも歓声を上げてる。
「決まりだな。表の訓練場で勝負だ。」
「いや…え…。」
私なにも言ってないんですけど…。
―――でもこの状況、断れないよな…。
よし…適当なタイミングで降参して、クロックさんの弟子入りも辞退してもらおう。
芝居をしてみることにした私。
痛いの嫌だし、攻撃が当たる前に…降参できないかな…。
はぁ…。
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