003 唯、清掃活動をする。

 気分を紛らわそうと、大声で歌いながら草原を進む私。

 見晴らしは良いんだけど、モンスターが怖い。

 クマさんの攻撃は防げたけど、モンスターの攻撃まで大丈夫な確証はないし…。


 恐怖でネガティブな方へ向かっちゃうのを、なんとか元気な歌で盛り返す。

 その繰り返しな道中。


 草原を抜けたところで、街道にさしかかった。

 そこからしばらく歩くと、町の概観がいかんも見えるようになってきた。


―――そういえば…メガネしてないよね。


 メガネしなくても生活できるレベルだけど、視力は良くない。

 運転免許にはメガネしましょうの条件書かれてるし。


 でも、普通に見える現在。

 異世界だと…メガネがいらないのかな。

 10年ぶりの裸眼らがんに、ちょっとだけテンションが上がる。


「うん…何だろ?」


 左前方10メートル、風化ふうかしかけの棒が地面に突き刺さってる。

 この大自然に似つかわしくない。

 

―――もう…こんなところに捨てていくなんて。


 周囲を見てみると、ペンチのような道具や、ぼろぼろになったヒモが落ちていた。

 ほっぺたを膨らませたまま、ゴミ拾いを始めた私。


「よいしょ…って、あれ?消えちゃった。」


 たしかに持ち上げたはずのヒモ、特に音もなく消えちゃった。

 なんだかよくわからないけど、手間は省けた。ありがたや。


 えっせらほっせら周りをきれいにして、最後の仕上げに地面に突き刺さっている棒に近づく。

 両手でがっしりとつかみ…力の限りよいしょっ。


「ほえぁっ!?」


 想定の数十倍簡単に抜けちゃった。

 自分ごと吹っ飛ぶかと思った…。

 そしてやっぱり消えちゃった謎の棒。


―――何だったんだろう…?


 わからないことだらけ、ちんぷんかんぷんだけど…とりあえず地面を元通りに踏み固める。


「きれいになったけど…どこに消えちゃったんだろうね。」


 さすが異世界。

 わかんないことがたくさん。





 しばらく街道をテクテク。

 途中、森が見えてきたけど、さすがに危なすぎると思って回避。

 おっちょこちょいに加えて、方向音痴のスキルも持ってる私。

 森なんか入ろうものなら、出てこれなくなると思う。


 賑わいの音とともに、町の入り口が見えてきた。

 看板には大きく「ヒマワリの町」と書かれてる。


―――やっぱり門番さんがいるか…。


 どうしよう、身分証なんて持ってないし…怪しさ満点な私の服装。

 武器も持ってないし、冒険者というのも変な気がする。

 そもそもこの世界に「冒険者」がいるかどうかも知らないけど。


「こんにちは。見かけない顔だね、他の町の冒険者さんかい?って…大丈夫かい?背中にいろいろついてるけど…?」

「へ?」


 服を引っ張ってみてびっくり。

 なんか…毛とか爪とか、あと弓矢みたいなのが引っかかってた。


―――もしかして…途中、襲われてた?


 防御力9999のせいかな…全く気づかなかった。

 …さすがに誤魔化さないと。

 そんなヤバい人、町にいれられませんなんて言われたらまずいし。


「えーっと…草原のあたりで転んじゃって…あはは。」

「そうだったのか、気をつけるんだよ。」

「はい。」

「それで、冒険者さんなのかい?」

「それは…。」


 嘘をついてもしょうがないので、ありのままに答えてみる。

 怪しさ満点な話だけど、仕方ない。

 アドリブのきく人じゃないんです…私。


「へえ。おもしろいお話だね。もしかして作家さんかい?」


 やっぱり信じてもらえなかった。

 そしてこの世界にも作家という職業があるみたい。


「そんな感じを…目指してます。」

「そうなのか、ぜひ頑張ってくれよ。」

「はい。では…。」


 結局はぐらかして通過した私。

 自分で言うのもなんだけど、こんなに怪しい人物はそうそういないと思うんだけど…なぜかすんなり入れちゃった。

 異世界のセキュリティ、甘すぎないかな…。


―――あ…もしかして…。


 身長の関係で、子どもに間違えられたのかもしれない。

 たしかになんか口調がそんな感じだったし…。

 年齢確認される率100パーセントな私。

 子ども扱いに慣れているとはいえ、異世界でもそうされると…。

 私のお豆腐なメンタルには…うん。


「はぁ…ん?」


 香ばしい匂いが漂ってきた。

 瞬間的に食欲センサーが反応する。


―――これは…焼きとうもろこしの匂いだ。


 食べること大好きな私。

 匂いでだいたい当てられるという、特殊なスキルを持ってる。

 えっへん。


 ぐぎゅーぅぅ。


―――…。


 そういえば何も食べてない。

 匂いに吸い寄せられるように、道路の脇にあった屋台に向かう。

 屋台まであと1メートルに迫ったときに、ふと大切なことを思い出した私。


―――お金もってない!


 危ない…無銭飲食するとこだった。

 でも、どうやってお金をかせげばいいんだろう。

 空腹もだんだんピークに近づいてるし…。


「おじょうちゃん。買っていくかい?」


 屋台のおじさんに声をかけられた。

 空腹には勝てないし、無銭飲食はできないので…お金をもっていないことを素直に伝える。


「そうなのか。そうだ、こいつ少しげちまったんだ。売りもんにはならねーし、お嬢ちゃんにあげるよ。」


 なんて優しい人なんだ。

 焦げたなんて絶対嘘、ものすごくおいしそうに焼けてる。

 お礼を重ねて焼きとうもろこしを受け取った私。


「今度はママと一緒に買いに来てくれよな。」


 …やっぱり子ども扱いされていた。

 たしかにママはいる…現実世界の方にだけど。


 ちょっと子どもっぽくふるまいつつ、屋台から離れる。

 少し離れたところに石のイスを見つけたので、座ってもぐもぐ。


「んー。すごくおいしい。」


 なんだかいろんな意味で涙がこぼれる。

 ありがたい親切心に助けられたものの、現状はなにも解決していない。

 相変わらず一文なしな私。

 どうしよう…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る