異世界の初期設定はバグだらけ。せっかくなので最強ステータスにしてみました。
くるとん
第一章 ふて寝したら異世界に来ちゃったようで
001 唯、寝落ちする。
「ぬわぁー、思いつかにゃいーっ!」
ショートボブの黒髪をぐしゃぐしゃにしながら、必死の形相でパソコンに向かい続ける一人の女性。
勢いそのままに足をバタバタ。
―――ふぇぁっ!?もう…2時間も経ってる…。
パソコンの時刻表示を視線が捉え、残酷すぎる現実に直面した。
「私…小説向いてないのかな…。」
彼女の名前は
デビューを目指して執筆活動を続けている、小説家のタマゴだ。
今日も良いアイデアが思いつかず、四苦八苦している。
―――むぅぅ…気分転換…。
無理を悟った唯は、そのままソファーベッドに飛び込んだ。
大好きなクマのぬいぐるみを抱きしめつつ、ふと我にかえる。
「少し休んだら…散歩でもしてみようかな。」
出歩くといえば、特売チラシの入る土曜日くらい。
たまには新鮮な経験を…ということで、散歩の予定をリマインドする。
―――よし…あ、そういえばドラマの時間じゃん。
夕方のドラマ、刑事ものが再放送されている。
テレビのリモコンを手に取り、左手で飲みかけのペットボトルを探す。
「ふぅわぁぁぁん…。」
ごろごろしながらテレビを見ていると、いつの間にか眠ってしまったようだ。
テレビはオフタイマーで消えている。
部屋には、唯の寝息だけが…静かに響いていた。
■■■
「んん。ふわぁぁう。」
大きなあくびを1回。
―――うぅん…寝ちゃったよ…。
スマホのアラーム、かけてたつもりだけど…気づけなかった…。
またやってしまった感にさいなまれつつ、まだ眠気の残る目をゆっくりと開く。
「…ん?」
視線の先には、クマさんがいた。
いや、ぬいぐるみじゃなくて…ある日森の中で出会うような、本物のクマさん。
サイズ感は…電子レンジくらいかな。
例えの下手っぴ加減はておいて、まだまだ子どもといった様子のクマさん。
「えっ、ちょっ。かわいいけど。」
とりあえず警察か動物園に電話しないと…。
「はい…?」
周囲を見渡すと、ここは草原のど真ん中だった。
とんでもないサイズのブランコに揺られていた少女が住んでいそうな大自然、遠くには町らしきものも見えてる。
「なんだ…夢か。大自然の中で暮らす一人の少女…うーん。」
夢の中でアイデア探しができるなんて、もしかしたら才能あるかも。
そんなポジティブシンキングは、私にもたれかかったクマさんにより…無残にも打ち砕かれることになる…。
「ふぁ。くすぐったいよ、ふふっ。」
クマさんに
うへへ。
そして気づいた。
「ん?くすぐっ…たい?」
なぜか冷静な表情で、ほっぺたをつねった私。
うん、とーっても痛い。
大切な確認を済ませると、私は大きく息を吸い込んだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
自分でも驚くような
顔を寄せて遊んでたクマさんも、あまりの大声に…驚いてどっか行っちゃったみたい。
その勢いのまま平静を取り戻した私は、身体じゅうをぺたぺたと触る。
―――う、うん…とりあえずケガはなさそうだけど…。
あまりの事態に、嫌な予感。
「ま…まさか、
自慢じゃないけど、おっちょこちょいだという自覚はある私。
冷蔵庫は開けっ放し、家の鍵をかけ忘れることなんてしょっちゅうだし…。
それにしてもこんな山奥に放置するなんて。
恐ろしいことも少し頭をよぎったけど、衣服は乱れてない。
―――とりあえず、人を探さないと。
ゆっくりと立ち上がったその瞬間、なんのはずみか…目線の先に映像が広がった。
「せ…設定画面?」
そう書かれた板…というか、タブレットというか…そんなのが空中に浮かんでる。
仮想現実を見てるみたいで、不思議な感覚。
よくわからないけど、とりあえず一つひとつ理解するように呟いてみる。
「名前はユイ、職業はなし。HP…HP?」
耳なじみの薄い単語に、なんだか嫌な予感がした。
―――ま、まさか…異世界!?
夢じゃないとわかった今、それしか可能性が残されてない。
困った、どうしよう。
刑事ドラマの最終回、どうなったんだろう…じゃなくて、どうしよう。
―――…。
あまりの事態を前に、ひとまず考えるのをやめてみた。
なるようになれの精神で、とりあえず「設定画面」とやらを構ってみよう。
―――
設定画面
名前 ユイ
職業 なし
レベル 1
H P 100
ATK 設定してください。
DEF 設定してください。
詳細を表示
―――
設定してくださいと表示されてるので、とりあえずここから。
それなりに異世界系の小説も読んだことがある私。
ATKが攻撃力、DEFが防御力をあらわしてることくらいはわかる。
―――設定してくださいってことは…割り振りができるのかな?
タブレットを操作するように、設定画面に触れてみる。
「初期値として100ポイントを配分してください…?」
どうやら攻撃的なスタイルとか、防御的なスタイルとか…そんな感じの設定ができるみたい。
なんだか後々に影響しまくりそうな状況だけど、知識も何もない。
さすがに攻撃力も防御力もないまま動くわけにもいかないし…。
とりあえず倒れちゃうとまずすぎるので、DEFを多めにして設定してみる。
「ATKが35で、DEFが75。これで大丈夫かな。」
…ちょっと待って、何かがおかしい。
そうだ、足し算が合わない。
100をオーバーしてる。
そんなわけないと懐かしい筆算まで地面に書いてみるけど、どう見直しても110。
「もしかして。」
そう呟いてボタンを押しっぱなしにしてみると、数値がどんどん上昇していく。
とうとうDEFの値が9999まで到達してしまった。
さすがにこれが限界値みたいで、これ以上は増えていかない。
ついでだしATKも、9999にしてみた。
―――まぁ…さすがに無理だよね。
きっと「100以下にしてください。」とかの注意画面が出ると思う。
諦め半分で、表示されてる確定ボタンに触れてみた。
「え…?」
ピロンというかわいらしい音ともに、認証されてしまったみたい。
特にエラーも出てないし。
「嘘…レベルは1のままだけど…。」
攻撃力9999、防御力9999。
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