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皇紀八百三十五年終月十日
翌日。
月桃館全従業員を二階の大広間に集め、新しい仲間としてのシスルの紹介がユイレンさんから有った。
当然、すぐに働けるようにシスルは客室係の制服に身を包んでる。
黒い長袖でひざ丈の
着せて見りゃほっそりとした体形なので似合わないことは無いのだが、本人はひらひらする裾が気に入らないらしく少々不満顔、一方、雇い主のユイレンさんは「可愛い可愛い」を連発し大喜びだ。
さて、ここで従業員一同の紹介となる。
ゴマ塩頭のイカツイオッサンだが、彼の作る料理は天下一品。それもそのはず、かつて美食家で鳴らした中原州の蝕公領ハク公爵のお抱え料理人だった傑物だ。
その配下の男と少年。
男の方はイノゾミ・キヨマル、まほらま人。俺と同じ年の四十路男だが中々都会的で洗練された男前。(因みに俺は野性味あふれる男前)それもそのはず、祖領望海大学経済学部を最高位の成績で卒業した秀才で、帝国の国策会社『南方開発株式会社』で課長級まで出世した経歴の持ち主だが、なぜか
彼の作る
少年の方はリブン・パハァク、十六歳の調理見習い。神掌州で食堂をやってる親父の家を飛び出して修行に出た中々に根性の有る奴で、生意気そうな目に張った頬骨、浅黒い肌に短い房尾という見た目も少々の事じゃへこたれない雰囲気を見せてやがる。
次にシスルの先輩方にあたる客室係の四人。
筆頭は当然古参兵のツゥルモゥ母ちゃん。次に年かさなのはチャッルナ・チュゥチェ。年かさと言ってもまだ三十路の初めの方で、出身はあの美人が多い事で知られるリャワン族。無論、当人も相当なもんで、腰までの黒髪、黒い瞳を持つ大きな目、うりざね顔で肉感的な唇、豊かな胸は、どうしても目が行っちまう。おまけに形の良いお尻には生えた長い尾っぽが色っぽい。
ちょっと前まで華隆街の高級店で毎月最上位の売り上げをたたき出す
その次に来るのが、あの拓洋大学に通う才女、エルマ・シェファー。金髪、碧眼、二重瞼の大きな目、通った鼻筋の中々の美人で本人は顔のそばかすが気になってるようだが、俺みたいなオッサンから言わせればそれも愛嬌の内よといった所。考古学を勉強しているとの事で拓洋の歴史にも詳しく、この子の観光案内はちょっとした評判だ。
と、ここまで褒めてやってるのに俺を見る目がコワイ。なんか嫌われるようなことしたかなぁ?俺?
客室係最年少のフラーマ・ノテ。シスルと二つくらいしか変わらない女の子だが、肩まで延び額で切りそろえられた黒髪、浅黒い肌、伏し目がちな赤い瞳、細面の整った顔立ち、ひざ丈の先が広がった尾と、ずいぶん大人びて神秘的な雰囲気を醸し出している。出身は龍顎州北部の海岸地帯を中心に海上生活を営むニシア族。ここに来るまでの間の経歴は皆あんまり知らず、歳が離れているせいか俺も全く話したことが無い。
最後に当館最年長のドルジン・ダムディ。この館の心臓とも言える
この総勢九名がシスルの仲間と言う事なる。
そして、担当教官を仰せつかったのがエルマ嬢。歳から言えばフラーマ嬢なんだろうが、めったにしゃべらないこの子では教官は荷が重かろうという事でこうなった。
で、さっそく鬼教官からのダメ出しが飛ぶ。
「まずアナタ、言葉遣いが全然なって無い!アガじゃなくて私!ナレじゃなくてお客様!語尾はですます!そこから直さなきゃお客様の前になんて出せないわ!」
と、脚を八の字に広げ、ピンとシスルを指さして腰に手なんて当てちゃって早速先輩風をぶいぶい吹かせてる。
対してシルスは。
「いきなりなおせはむづかしいでありまするですが、なんとかどりょくするのであるまするお客様」
「私はお客様じゃないの!エルマ先輩とお呼びなさい!」
俺はその様子を命懸けで笑いをこらえて見ていたのだが、エルマパイセンの怒りはなぜかこっちに飛び火する。
「オタケベ様!今までこの子にどんな教育をしてたんですか!一番身近に居る大人がしっかりしなきゃダメでしょ!」
ちょっと待ってよ。こいつとの付き合いはまだ一月程度だぜ。
「まぁまぁ、エルマ、とりあえずシスルちゃんにはお掃除とかお布団の入れ替えとか、その辺からやってもらいましょうよ。やり方、教えてあげて」
建設的な意見がツゥルモゥ母ちゃんから提示され、早速今日からシスルの実戦投入が始まった。
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