五分で読める、簡単恐怖の話

ヘイ

第1話

 こっくりさん。

 まあ、学生の間では今更と言うこともあるし、そこまで流行り物というわけでもなかった。ただ、何となく憧れというものもあって、少年たちはこっくりさんをやることになった。

 五円玉と五十音と鳥居、0から9の数字、そしてはいといいえが書かれた紙。

「おい、義久よしひさ。準備できてんのか?」

 その道具を持ってきた少年が確認のために声をかけた。

「おーけー、僕の方は大丈夫だよ、如月きさらぎ

 荷物を纏めてから、如月と言う少年のもとに寄った。

「こっちも大丈夫。後は春也はるやが来たらいいんだけど」

 その場にはもう一人、少年がいて、後一人の少年が遅れているようだった。

康太こうたは大丈夫なのか?」

「うん? 俺は大丈夫だよ」

 義久と康太が話していると、三人のいた教室の扉が勢いよく開かれた。

「悪い、遅れた! ちょっと委員会の仕事で」

「遅いぞ、春也」

 それを用意して、義久たちは興じていた。

 正直なところ誰一人としてこっくりさんなどというものを真面目に考えたこともなかったし、オカルトなど高々迷信だなどと思っていた。

「こっくりさん、こっくりさん……」

 四つ、人差し指が乗せられた五円玉。それは神の鳥居の上に置かれている。

「おいでください。おいでになられましたら、はいへお進みください……」

 四人が声を揃えて言うと五円玉はゆっくりと、はいと書かれた場所へ向かって進んだ。

 とは言っても、誰もが薄々、考えていた。

 こっくりさんなどという存在は実際には居なくて、この場の全員ではいに向けて五円玉を動かしていることも。

 こんなチープなスリルが何だか義久らには気持ち良くて、悪ふざけでこんなことをしていたのだ。

 そんなつもりでやっていた。

「……結局何も起きねぇな」

 春也がつまらないと言う様に一番、最初に指を離した。

 その後に続く様に、康太、義久、如月が順に指を離す。

 それが推奨されない行為であったとしても、何の意味もなかった。

 何せ、それは始まってもいないと考えていたから。

「はあ……、帰ろうぜ」

 誰かがそう言って、義久たちはその日、解散することにした。

 康太と春也とは学校を出ると、すぐに別れた。彼らは電車通学であったからだ。

 下校途中、いつもと同じ風景に、いつもと変わらない光景に、彼は飽きていた。

「なあ、例えばさ……」

 義久の隣に立っていた如月がそう言い始めた。

「あそこに立っている女の子がさ……、実は幽霊だったりしてな」

 なんて、彼は笑う。

 あり得ないと義久が返せば、彼もそれは分かっていたのだろう。

「そう言えば、知ってたか?」

「何を?」

「いや、ここの踏切、かなり昔にさ事故があったらしいんだよ」

 如月は語り始めた。

 知識自慢のつもりだったんだろうか。

 踏切はカンカンと電車が近づくのを音を鳴らして伝えてくる。

 それが少しだけ、友達の彼の話に不気味さを感じさせていた。

「小学校かな。ほら、この近くに小学校があるだろ」

「ああ」

 彼がどの小学校のことを言ってるのかは理解できた。

「あそこの小学校の生徒が死んだんだよ。ここで……」

 声の調子を下げて、語る彼はどこか楽しそうに見える。

「自殺、らしいな。いじめに耐えかねて、その子は自殺したらしい」

 底冷えする様な声。

「でも、それを言い出したのはいじめてた奴ら何だと」

 その彼らと言うのはどう言うつもりで自殺をしたと言ったのだろう。

「まあ、実際は電車が来たところに背中を押して殺したらしいんだよ」

「そ、そうなんだ」

「因みに虐めてた奴の親は警察でも偉い人でね、いじめに関しても全て揉み消されたんだってさ。ネットにはいじめ自殺として乗ってると思うんだけど」

 揶揄う様にして笑われて、義久はポケットの中に入れていたスマートフォンを取り出す。

 時刻は午後四時四十分。

「ーー踏切、自殺……」

 ブラウザを開いて確認してみれば、それらしい話が出てくる。

 義久が見る限り、上から二つ目が詳しく書かれているのだろう。

 そう思ってそのサイトを開いてみる。

 しかし、そこに書かれているのは結局、男子小学生が電車に轢かれて死んだと言う話。自殺であったと言う話。

 どうにも、事件があったのは本当だったとして、自殺ではないと言うことはわからない。

「なあ、何で……」

「死んだのは如月きさらぎ海斗かいと。当時、小学五年生」

 その名前に義久は聞き覚えがあった。

「生きてたら、今は高校二年生かな」

「如月って……」

 ヘラヘラと笑う彼は確かにそこにいた。

「俺の兄弟だよ、双子の」

 懐かしいと思い出を語る様に。

「でさー、一卵性双生児ってわけじゃなくて見た目も似てねぇし、親は離婚してその頃はもう、一緒に過ごしてなかったけど。仲、よかったんだぜ?」

 何故、そんな話をしだしたのだろうか。

「で、俺、気になって出来る限り調べてみたんだけどさ。お前ら三人ってずっと仲良かったよな?」

「あ、ああ。小学校の頃から……」

「で、海斗のこと虐めてなかったか?」

 確信を持った問いだった。

 答えるまでもなく答えは分かっていたはずだ。

「いや、知ってるよ。その日、お前は風邪で学校を休んでたからな」

「…………」

「海斗とも仲良かったんだろ?」

「ああ……」

「で、こっから先は俺が知ってる話。義久は知らない話。実はさー、誰が海斗の背中押したかは分かってんだよねー」

 それは何となくで理解できている。

「康太が押したんだよ。まあ、警察に言っても無意味だしさー、もっと別のやり方ってのがあるだろ?」

「何、言ってんだよ……」

 別のやり方。

 それが如月の次の言葉によって、理解させられる。

「こっくりさんって、割と本気でヤバいやつらしいよな……」

 壊れた様に如月が笑う。

 義久はその顔に絶望を見た。

 方法があまりにも不確定で、何故、そんな考えに及んだのか。

「待てって……」

 何故か、制止を求める言葉を吐いた。

 こっくりさんが、くだらない。

 でも、これは。

 現実かもしれない。

 そんな恐怖の波が義久に押し寄せてくる。

「いやー、もう遅いよ」

 ほら。

 そう言って彼は義久にスマートフォンを見せてきた。

「は? 駅近くで、自動車事故?」

 その画面に表示された文面を読み上げる。

 男子高校生二人が大怪我。

 大型車が居眠り運転で突っ込んできたそうだ。

 何だか、義久は途端に恐ろしさを覚えた。

「で、俺たちも、もうそろそろ不幸が訪れるかもしれないってわけ」

 だというのに、如月は愉快そうに笑っている。これから、起こる悲劇を見据えて。

「まあ、こんな場所にいたらどうなるかくらいわかるよな?」

 焦りから、ジンワリと汗をかき、恐怖からか声を荒げて、如月に掴みかかろうとする。

「待てって! 何で、何で僕が!」

 カンカンカン……。

 そんな音が不気味に響き渡る。

 義久の頭の中で明滅を繰り返して、次第に音は大きくなって。

 途端に義久と如月の足がもつれて、電車が迫り来る踏切の中に立たされた。

「あ、嫌ーー」

 先ほどまで立っていた場所には唖然とした様子の人が立っていて、その向こう側を義久が振り返ると。

「兄……ざ、ん……」

 腕も足も顔の半分もなく真っ赤に染まり、内臓がはみ出た様なそんな風体の小学生がこちらを見ていた。義久と如月以外の他の誰にも見えていなかったのだろう。

 死の間際、それは見えてしまったのだ。

 目の前には電車が迫る。避けることはできない。

「か、いとーー」

 その声は誰のものだったか。

 ブオオオン!

 そんな音と共に、電車が通り過ぎて行き、二人の体にぶち当たる。

 ガタン、ガタン、ゴトン。

 それが通り過ぎた後に、ぐちゃぐちゃになった体がその場に残された。それは彼らが最後に見た、如月海斗の惨状と似ていた。

『○○市の踏切で男子高校生二名が死亡ーー』

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