閑話 大魔導師かく語りき
わしは大魔導師だ。
何?うさぎのぬいぐるみが偉そうにだと?
これは仕方がないのだ。わしの肉体は既にないのだ。人として、わしは既に死んでおる身だからな。
わしはイシドール・フォン・アインシュヴァルト。
この大陸でわしの名を知らぬ者などいない天才中の天才、千年に一度の大魔導師とはわしのことぞ。一般ぴーぽーのお子ちゃまでもわしの名を知っておるというのに知らんというか?
わしはこの大陸の西方で生まれた。西方はな、魔法が軽んじられとるんだ。魔力は目に見えぬだろ?だから、あいつらは魔法を信じないのだ。しかもあいつら、この千年以上、小競り合いを続けているような奴らだ。
そんな厄介なところにわしは人並外れた高い魔力を持って、生まれた訳だ。だがどうやって見つけたのかは知らんがわしの存在を知ったレムリアにスカウトされたのだ。大金を積まれたわしの両親は喜んで自分の子を売り渡した訳だ。その時、わしは三歳だったか。
だがわしはそれが運命だと知っておったよ。それは避けることが出来んと知っておった。そうだ。星詠みの力さ。
星詠みは予め起こる運命を知り得る力だ。しかし、運命を知っておくことで運命は変えることが出来るのだ。自分以外のはという条件がつくがな。
そうだ。自分に起こる運命を知っても変えることは出来んのだ。それが星詠みの宿命というものだからな。
ふむ、すまんな。話が逸れたか。レムリアに連行されたわしは悪くないと思っておったよ。魔力があっても馬鹿にされるか、化け物扱いされる故郷より、ましだったからな。
他国の出身であり平民であるわしだったが魔力の高さはこれまでにないものだったらしくてな。一流の教育を受けられる待遇を得られて、幸せなものだったよ。
天才なわしはみるみる知識を水が吸うが如く、吸収したからな。気付いた時には宮廷魔導師に上りつめていたな。あっという間だったさ。
筆頭宮廷魔導師になったのは十五歳の時だったか。史上最年少であったし、実力でわしに勝てる者などおらんかったからな。何しろ、四属性と光のレベルV魔法を唱えられる者なぞ、現代でも大陸におらんだろう。
唯一、わしとまともにやりあえたのがいたな。悪友のベルンハルトだ。奴も天才ではあるな。わしほどではないがな。
奴は末席とはいえ、貴族だったがそんなことを感じさせない、いい男だったさ。奴は変わっていてな、魔法使いとはこうあるべきという変なロマンを拗らせとる。それも面倒なレベルでな。「今日こそ、僕が勝つ」などとほざきながら、魔法勝負を挑まれたものだ。今となっては若気の至りで済む話だがな。
そうだそうだ。わしは名実ともにNo.1となったのだが。年貢の納め時という面倒なものが来たのさ。わしは町を歩けば、女の子が頬を染めて振り返り、目が合っただけで惚れられるレベルの美男子ぞ。
何?うさぎのくせにふざけたことを言うなと?その時はこんなうさぎのぬいぐるみではなかったのだ。あまり、うるさいとお主、カエルにするぞ?
それでだ、わしは皇女と結婚する羽目になったのさ。何?その皇女が嫌いなのかって?そういう訳ではないぞ。帝国の真珠だぞ?あんなに美しい女はいないってレベルのいい女だ。聖女だから面倒な女だがな。
しかしな、わしは自由を求める男なのだよ。かわいい女の子を追いかけたいものだろう?何?浮気はいけないって?分かっとるわ。
浮気がバレた時のあの女の恐ろしさを知らんだろ?モーニングスターを知っとるか?トゲトゲがついていてな、勢いを利用してブーンと振って、ガスッとやる武器なのだ。あれでだぞ。あれで本気で殴ってくる聖女だからな。
浮気するからだ?浮気はロマンぞ、男の夢ぞ。何?そんなこと言っていると孫に愛想を尽かされる?そんなはずなかろう。
わしのかわいいリリアーナがわしを嫌う…はずないとは言えんな。わしの孫でもあるがあの女の孫だしな。あの子の過去を見るとないとは言い切れんな。
あの子の愛に対する執着心は病んでおるからな。絶対、怒らせてはいかんぞ、あれは怒らせると血を見るぞ。間違いないだろうよ。
ふむ。そうか。そろそろ行くのか?よかろう。わしの話を聞きたければ、いつでも来るがいいぞ。
わしは心の広い大魔導師様だからな。
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