第22話 流れる水の音


「どこ行ったんだ? あいつは……」


 来た道を戻り、刹那と手分けしてユウヤを探したが、全然見つからない。

 刹那の式神の明かりだけじゃ、あまり遠くまで見えないから姿を確認することが難しい。


 数分前に通った岩場まで来てみたが、手がかりは何もなかった。


(このままだと、俺が迷子になりそうだな…………)


 そう考えていると、突然右の足首を、何かに掴まれた。


(な、なんだ!?)


 そこで初めて気がついた。

 自分が立っている岩場の中から、手のようなものが出ていたことに。


 それが俺の足を引っ張って、俺は後ろに倒される。


「な……なんだこれ!?」


 後頭部をぶつけると思ったが、さらにもう一本ズズズっと音を立てて、手が出てきて、そいつが俺の頭をキャッチ。


 そして、さらにズズズっと音を立て出てきた数本の手が俺の体を掴み、胴上げをされる。


 何度か空中に投げられては、掴まれてを繰り返しかえした。


(なんで胴上げされてるんだ!? どうなってる!?)


 まずは状況を立て直さなければと、抵抗しようとしたが、その手達は俺を————


 ————勢いよく川へ投げ飛ばした。



「わああああああああ!!!!」



「ちょ……颯真!? どうしたの!?」



 俺の叫び声が聞こえたのか、刹那が遠くの方で呼んでいるのがわかったが、時すでに遅し。


 ドボンと川に落とされた。


(やばい…………この川、かなり深い!!!)


 泳げないわけではないが、いきなり投げ入れられた川は思っていたより深く、そして流れも速い。


 浮きたいのに、さっきのとは違う別の何かが、俺の足を引っ張って、真っ暗な川底へ引っ張って放さない。


 目を開けても、何も見えない。

 光のない新月の夜だ。


 反射する光もなにもない…………


(くそ…………息がもたない…………)


 意識を失いそうになったとき、引っ張っていた何かが俺の周りからいなくなった。

 そして、急に水に反射している光がみえる。


 俺はその光を目指して、最後の力を振り絞って、川から出ようと上へ泳いだ。







 暖かい、オレンジ色の光に段々と近づいていくと、水面からようやく顔を出すことができた。


(助かった……————)



「はぁ……はぁ……」


 酸素を得るために呼吸をする。

 呼吸をするのに必死で、周りなんて見えていなかった。


 なぜ顔を出したこの場所が、こんなにも明るくて、暖かいか…………なんて、気に留めてなかった。


 だけど————


「きゃあああああああああああ!!!!」


 ————女の悲鳴が聞こえて、自分の状況に気づかされる。



 裸の女の人が、いっぱいいる。


「なんなのよ!!! 一体いつから入っていたの!?」

「どうなってるの!? これで二人目よ!?」

「なんで女湯に、男が二人も浸かってるのよ!!!!!!」


 俺は、川に流されたはずなのに、なぜか女湯の中にいた。



 あのオレンジの光は、この女湯の室内灯の明かりで、暖かいのは、温泉の中だったからだった。



(え、え? どういうこと!?)



「見てんじゃないわよ!! この変態!!!」


まるで漫画のワンシーンかのように、飛んで来た洗面器が、俺の顔面に直撃した。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る