第18話 狛犬と獅子


 結界の入り口には、狛犬と獅子が対になって置かれている事が多く、この文王の丘もその一つらしい。

 いくら手入れがされていないとしても、そのどちらとも跡形もなく消えているのはおかしいと、ユウヤが辺りを見渡したが、台座には人間の脚だけだった。

 もう片方の台座には、特になにもない。


「一足遅かったか? 颯真、祠の中を確認してくれ。その中に、殺生石の封印の札があるはずだ」


 ユウヤにそう言われて、俺は祠の扉を開けようと、手を伸ばした。


 その時だった——————



 ぼとっ……と、何かが俺の後ろに落ちる音がする。


「な、なんだ!?」


 振り返ると、俺の一歩後ろに、首が落ちていた。



「わあああああああああっ!!!!」



 さっきの右脚と同じだ。

 食いちぎられた、男の首だ。

 よほど怖かったのだろう、目を見開いたままだ。



 それに続いて、また何かが落ちてくる。


 ぼとぼとぼと…………と、雑草の上に落ちて来たのは割れた石像。


 狛犬の石像が、バラバラになって地面に落ちてくる。



「まさか…………これって」


 その石像に触ろうと手を伸ばすと、上空から声がする。


「狛七!!!!」


 声のした方を見上げると、ぶわっと、生ぬるい風が頬をかすめた。

 白い獅子が…………何かと戦いながら、狛七の名前を呼んでいた。


「狛七!!! 狛七!!!」


 何度も、何度も涙ながらに狛七を呼んでいる。



(まさか、この石像が……狛七なのか?)



 青い影のような、靄のようなものに包まれた何かが、その場から逃げようと空中でぐるぐると回っている。


「させるかっ!!」


 ユウヤはその靄の動きを封じようと、5枚の札を投げ、空中に五芒星ごぼうせいの陣が敷かれた。


 そして靄が動けなくなったのを確認すると、俺にまた声をかける。


「颯真!! 祠の中は、どうなっている!? 早く確認するんだ!!」


「わ、わかった!!」



 ユウヤに言われるまま、俺は祠の中を確認した。


 封印と書かれた札が、1枚ある。


 だけど…………



「破られてる…………ユウヤ、札が真っ二つに破られてる!!!」



 俺はそう叫びながら、また上空を見上げた。



「なんだって!? じゃあ、あれも…………今、獅子が戦っているあれも、狐の一部だな」




 獅子が先ほどから戦っている何かに噛みつきながら、俺の方へ降りてきた。



「呪受者様……!!? 何をぼーっとしてるのですか!! 早くこいつを…………ぐっ……ふ」


 獅子が噛んでいた何かは、暴れながら抜け出して、獅子の口から転げ落ちる。




 それは、人間の手だった。

 おそらく、被害者の左手だ。



 青い影のような、靄をまとったその左手は、意思を持っているようで、生ぬるい風とともに浮き上がる。



「呪受者様!!!」

「颯真!!!!」




 獅子とユウヤに呼ばれた時には、もう遅い。



 左手が俺の右目に向かって飛んで来た——————











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