第17話 文王の丘



「文王の丘? あそこは、お前の弟たちが守っていたのではなかったのか? 狛一はくいち

「そうです! だからこそ、わかるのです!!」


 さっきまでまるで春日様の孫とは思えないぐらい、ヘラヘラしていたユウヤが、真剣な顔つきに変わった。



 狛一と呼ばれた、あの少年が何者なのか有耶無耶うやむやのままだったが、どうも敵ではないようだ。



「春日様は!? 慧様のお部屋ですか!?」

 狛一はとても慌ていて、焦っていた。

「まぁ落ち着け。僕たちが行くよ。文王の丘なんだな」

「そうです! 早くしないと、狛七はくしちが……弟が殺されてしまう!!」


 ユウヤは泣き出してしまった狛一を落ち着かせると、本当にさっきと同じ人間かと思うくらいしっかりとした口調になって、まとっていた空気がガラッと変わった。



「刹那、春日様が戻ったら状況を伝えてくれ。颯真、行こう……!」

「えっ!? 俺!?」

「君が行かないでどうするんだ、呪受者だろ? 封印の力を強められるのは、君しかいないんだ」


「……わかった。でも、俺その封印の仕方知らないが……」

「大丈夫。僕が知ってるから」



 俺はユウヤと一緒に文王の丘へ向かった。




 * * *






  夜明け前の薄暗い中、隠し里と同じような、深い霧が立ち込めた林を超えると、一部開けた場所があって、そこには塗装の剥げた赤い鳥居がある。

 小さな神社のようになっていたが、周辺に人が住んでいないから、参拝に来る人も少ないのだろう。

 手入れがされておらず、鳥居の向こうには、ボロボロのほこらが、ポツンと立っている。


 文王の丘は、最初の事件があった三台の杜からそう遠くない場所にあった。

 玉藻は、自分の体を集めるのに比較的近いところから攻めているのだろうか?


「これは……大変だ」


 ユウヤは鳥居近くにあった台座のような四角い石を見て驚いていた。


「どうした? 何が……」


 俺の位置からはよく見えなかったが、ユウヤに駆け寄ると、そこには脚があった————


「うわあああああっ」


 何者かに食いちぎられたかのような、人間の脚だった。

 あの3人の死体から消えていたのは、右脚と左手と首だ。

 おそらく、その、右脚だ。


 驚きすぎて、思わず腰を抜かしてしまった。


 妖怪に襲われて、危険な目に遭う事は何度かあったが、妖怪に殺された人間の体を見たのは初めてだったんだ。


 もう二度と動くことのない、腐りかけた肉の塊が、そこにある。



「颯真、落ち着け。問題はそこじゃないんだ」

「こ、これ以上一体なんの問題があるっていうんだよ!!!」


「いないんだよ、狛犬が。この文王の丘を守っていた、狛犬が2体ともいなくなってるんだ」

「狛犬……? それってまさか、さっきの狛一の言っていた、弟の……?」




「ああ、狛七も、その相棒の獅子もいない…………」




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