第10話 白銀

「————……ま……颯真!!」


「は……はいっ!!」


 誰かに名前を呼ばれて、俺は反射的に返事をしながら起き上がった。


「え、えと…………あれ?」


 周りを見渡すと、俺は大屋敷の自分の部屋で、いつの間にか布団に寝かせられていたようだった。


 あの大きな鴉と対峙して、その後、俺は空から落ちたはずだ。

 完全に死んだと思った。だけど、全然痛くなない。

 どこも怪我をしていないようだっだ。


「やっと起きたか。これで、一安心だな……刹那」


 俺を呼んだのは士郎さんだった。

 士郎さんが、俺を助けてくれたのだろうか?と思ったが、同意を求められた刹那の言動で、それは間違いだと知る。


「何が一安心よ!!あんなことして、私が気が間に合わなかったら、死んでたのよ!?大失態よ、何を考えてるの叔父さま!!」


「そんな……怒らなくても…………」


「怒るわよ!!あんな危険な妖怪がいたのに、もしまかり間違って、颯真が死んだらどうするの!?」


 姪っ子がものすごい勢いで怒ってくるのがショックだったようで、割とのんびりしている性格の士郎さんはしゅんとしている。


 俺を助けてくれたのは、刹那だった。

 あのとき嗅いだ白檀の香りは、やはり刹那のものだった。


「颯真も、ちゃんとやればできるじゃない!!私、あんなに凄い炎は初めて見たわ!!今まで何してたのよ!!」


「いや、あれは偶然で……————って、え?」


 また怒られてると思った。

 だけど、これは褒められていた。


 それに——…………


「……何よ?」

「いや、初めて、名前で呼ばれたなって、思って…………」


 刹那が俺を、呪受者と呼ばなかったのは、初めてだった。


「……べ、別にいいじゃない。ハトコなんだから、当たり前でしょ」


 刹那はまたプイッと俺に背を向けて、部屋を出て行ってしまった。

 だけど、今回は前とは違って、怒っているんじゃなくて、恥ずかしそうだった。



「やっと刹那が君を認めたようだね。颯真、刹那はね君が嫌いだったわけじゃないんだよ。嫉妬していたんだ」

「嫉妬?」

「そう、刹那は、自分が呪受者として生まれなかった事が嫌なんだ。あの子は、とても器用で陰陽師としての素質もあるし、努力もたくさんして来た。だけど、どんなに努力しても、呪受者が持っている力には及ばない。でも、さっき颯真が出した青い炎を見て、諦めがついたんだろう」


(さっきの青い炎……?)


「でも、あれは、適当に投げたお札の力で、士郎さんの力なんじゃ?」

「いや、君の力だよ。札だけじゃ、あんなな大きな妖怪を焼き尽くす力にはならない。颯真、鏡を見てごらん」


 士郎さんから渡された手鏡をのぞくと、まるで別人のように白髪になっている自分がいた。


「うわっ……え?なんだこれ……俺か? 白髪になってる…………」


 髪だけじゃない。

 眉毛も、まつ毛も白…………というか、銀髪になっていた。


「髪が白銀になったのは、君が呪受者で、この一族の中で一番力を持っている証みたいなものさ。あの妖怪と対峙したことで、本来の力が目覚めたんだ」


「でも、これで学校に行くのは流石にまずいんじゃ……」


 転校生が銀髪だったら、さすがにみんなビビるだろう…………。


「大丈夫、心配ないさ。一般の人たちには普通の黒に見えるから」


 俺は、全身の毛が白銀になったのを確認しながら


「そう……ですか」


 信じられないが、とりあえず納得した。


(あー……ここの毛も白銀だ)





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