第2話 隻眼の少年

 

 ———— いつからだろう。


 俺のこの右目が、見えるようになったのは。



 生まれた時から、俺の右目は見ることができなかった。


 片側の目が見えないことを不便だと思ったことはないが、他の周りの人とは見え方が違うことは理解している。



 でも、最近妙なことが起きた。

 いつもと、何か見え方が違うのだ。



 明るさが違う気がした。


 物が二重に見える事があった。


 距離感がつかめなくて、何度か人や物にぶつかった。



 そうして、数日経った今日。

 起き抜けにふと思いついて、左目を手で隠して見た。



(見えている————嘘だろ……)




 14年間、全く機能していなかった右目……

 強いて言うなら、瞳の色が赤みを帯びているのが綺麗だと、クラスの女子に言われて嬉しかったくらいで、何の意味もなかったこの右目が、見えている。


 左目と遜色なく、寧ろ、右目で見る方がなんだか色が明るく、キラキラと輝いているような感じがした。



(どうなってるんだ?)



 特段治療などはしていない。

 これは先天性のもので、治すことは不可能なんだと、病院に通ったこともない。


 理由はわからない。

 だけど、ただただ、嬉しかった。

 嬉しくて、制服に着替えてすぐに外に出た。



(もっと、色んなものを見てみたい。)



 11時からの、ばあちゃんの49日法要までわずかな時間だったが、近所を散策することにした。


(すごい……草も木も、光を放ってるみたいにキラキラしてる。天気がいいせいで、余計そう感じるのか? 今日はやけに天気がいいな————夏の空の色は、確か紺碧っていうんだったな)





 そして、空を見上げていたら、人間の顔が——————








「うわぁぁああああっ!!」




 あの時出なかった叫び声が、今更出た。




 大きく見開いた視界には、見覚えのある自分の部屋の天井。


 背中に当たるのは俺の形に凹んだベッドのマットレスの感触。



(夢を……見ていたのか?)



 仰向けのまま、悪夢のせいで整わない呼吸。


 何度も吸って吐いてを繰り返して、自分が今までどうやって呼吸していたか思い出す。



 苦しくて涙目になった。



 そうして、少し落ち着いて、上体を動かして起き上がると、よく知った声が聞こえる。




「起きたか。颯真そうま………」



 声のした方を向くと、自室のドアの前に、ばあちゃんが立っていた。



「ばあちゃん……!?」



 真っ黒な着物を着た、死んだはずのばあちゃんが立っていた。




(俺は、死んだのか————!?)

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