帰宅部女子と帰宅しようとするのを、水泳部美少女に邪魔されるので何とかしたい
うーぱー
第一章 私は、きたくぶ。他に、生き方を、知らない
第1話 盛況! 異能力部活の勧誘が賑わう!
桜の花びらを抱いた春風が吹く下で、部活に勧誘する列が校舎前にずらっと並んでいる。
吹奏楽部の奏でる賑やかな楽曲も相まって、始業式直後の部活勧誘会が、まるでお祭りだ。
家庭科部が手からを出した炎でホットケーキを焼いているから、甘い匂いが漂ってくる。昼食のパンを食べた直後なのに、俺のお腹がぐーっと鳴ってしまった。
「せいやあッ!」
背後からの勇ましい声に振り返ってみれば、空手部が金属バットをへし折っていた。
その傍らでは、チェス部の駒が命あるかの如く動いて盤上で戦いを繰り広げている。
「どの部活に入っても楽しそうだけど、とりあえず見学は後回しか……。あっ!」
俺は数秒に一回誰かとぶつかる混雑に辟易としつつあったけど、ついに目的の人を見つけ、息苦しさを忘れた。
「えっと、あの……」
その人に何て声をかけようかと、俺が伸ばしかけた手をさまよわせていたら、人ごみの向こうから悲鳴が聞こえてきた。
「いやだああ。僕は帰って、マジカル・リリルンの限定版を買いに行くんだああ!」
「部活勧誘の賑やかさとは別種の悲鳴だけど……。今の俺には関係無いか」
気にはなるが、俺は探していた人に少しでも近づこうとする。
けど、人の波に押されてなかなか思うように進めない。
暫く悪戦苦闘していると、不意に開けた場所に出た。
「ん?」
目に飛び込んできたのは、柔道着の男二人が制服姿の男子を両脇から抱えて引きずる光景だ。
周りの生徒達は、三人から距離を取り、好奇の視線を向け、笑みを漏らしたりスマホを取りだしている。
「えっと……。何が起きてるの?」
生徒達の関心は空間の中央に居る男達なので、誰も俺の呟きに返事はしない。
引きずられる男子生徒は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにし、眼鏡を曇らせて必死に暴れている。
「離せ、離せえ! マジカル・リリルンが家で待っているんだ!」
眼鏡くんは腕を暴れさせているが、貧弱な腕力では、脇を固める柔道着の男達を振りほどけないようだ。
「何だ? この学校の生徒はみんな能力者なんだろ? 何で誰も助けないの?」
ううん……。転入生の俺には知らない事情があるのか?
助けに行くべき?
でも、幾らここが能力者を集めた高校とはいえ、俺が割って入るのは気がひける。
かといって、泣きじゃくっている眼鏡くんの態度は演技に見えない。本当に助けが必要なのか?
俺の苦悩を遮るのは、手首に触れる柔らかいもの。
「駄目……」
「……え?」
聞き覚えのあるかすれた声に、もしかしてと振り返る。
長い前髪で目元を隠した小柄な女子がチューブの飲料を咥えている。
幸運にも、俺が探していた子に、逆に声をかけられちゃった。
しかも、手首を触られてる!
女の子ってこんなにも温かくて柔らかいんだ……。
「……? 何でニヤついているの?」
「え? えへへ……」
「キモッ……。とにかく行ったら、駄目……」
「お、おともだぴぴまってくだだい!」
うわっ。
動揺の余り口が痙攣して、自分でも何を言ったのか分からない。
「なっ、何、いきなり……」
動揺するな。平常心。平常心だ。
俺はこの程度の修羅場は幾つも乗り越えてきたはずだ。落ち着け。
「ご、ごめん。氷上さん。言い間違えた。大丈夫。深呼吸した。もう大丈夫」
「え?」
氷上の口からチューブ飲料がぽろりとこぼれる。
「おっと」
氷上の手を振りほどいたのは残念だが、チューブを受け止めることに成功した。
「落としたよ。ってか、落ちていないか」
「あ、ありがと……」
朝食トマトと書いてあるチューブを渡す際に指が触れ、俺はますます緊張したが、平静を装う。
「お、同じA組の
「うん。……私なんかの、名前、覚えて、くれたんだ」
「今日から一年間を一緒に過ごすクラスメイトなんだから、当然だろ」
「そう。当然、なんだ……。声、かけて、良かった。かも……」
氷上は視線を通りの中央に向けると、途切れ途切れに喋りだした。
「……あなたは外部受験組、だよね。だったら、覚えておいて。……来た。アレが、九重学園帰宅部取締委員会」
「……え? 何だって?」
ジャーン! ジャーン!
吹奏楽部の演じる楽曲が、ほのぼのアニメから、戦争映画の艦隊出撃シーンみたいな交響曲に変わった。
まるで予め定められていたかのように、人垣が整然と左右に開き、奥から異様な集団がやってくる。
「え? 何、アレ」
二十名くらいの集団はみな野球やサッカーのユニフォームに身を包んでいる。
中央では、アメフトのプロテクターを装備した大男八人が豪奢な御輿を担ぎあげている。
御輿の上には、
美少女は黄金の髪飾りに中天の日差しを反射させ、周囲に光を振りまいている。
古代の巫女が着ていそうな和服と相まって神々しさすら感じる。
人ごみの中には、感極まった様子で涙を流し、地にひれ伏す者まで現れ始めた。
「な、何なのアレ……」
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