嘆くな、死ねるくらいあなたが好きだって君に伝えたのなら

長月 有樹

第1話

 死ねるくらいあなたが好き。それをどうしても伝えたかった。伝えてしまったらこの恋が終わってしまうとしても。


「はあぁーー………………。ぁああ。あぁぁ……やっちゃったなぁ……」


 青年──鷺沢翔吾は、はぁあと深い溜息をつきつつ、先ほどまで自室の学習机に突っ伏してうなだれていた。帰宅してからずっと悲しみにくれていた。


 理由は、翔吾と同年代──高校生二年生なら大抵通ってきた恋愛ごと。はっきりいうと翔吾は、今日失恋をした。


 日付があと少しで変わるという深い夜の時間帯になるとがばりと起き上がり、手慣れた動きでブルートゥースイヤホンを耳にはめる。


「こんな時でも聴いちゃうもんなんだな」

 いやこんな時だからこそかと独り言を続けて、スマホのラジオ視聴アプリを起動させる。


 イヤホンから軽快なロックミュージックをバックに。ラジオパーソナリティの声が聴こえてくる。三十代の男女のお笑い芸人がパーソナリティの深夜ラジオ。オープニングトークの道端に落ちていた長ネギを見つけたと女が話すと、それに対して有り得ないストーリーを羅列するボケをする男。スタッフの明るい笑い声が聞こえてくる。


『さぁ今週も始めていきましょ!愛さん』男の声。

『ではそろそろ始めて参りましょう。』女の声

『プリンセス線香のミッドナイトクローラー!!』二人の声が重なりエコーがかかる。


 プリンセス線香という男女コンビのお笑い芸人がパーソナリティの一時間の深夜ラジオ。翔吾が毎週金曜日の深夜、翔吾は三年間、ずっと聞き続けてるラジオ番組。

 恋愛大好きな女性芸人──愛さんとその相方であるイケメンであるが、ギャンブル好きでだらしない一面が魅力の相方の男性──石垣さんのコンビの深夜ラジオ。


 始めて聞いた時からこの二人のやり取りに魅了されてから翔吾はずっと聴き続けて、今では他の芸人の深夜ラジオも聴き続けるくらいになった。ラジオは翔吾にとってはかけがいの無い物となった。ヘビーリスナーであった。


 そのラジオのせいで今はこんなにブルーなのだが………………。


 プリンセス線香のミッドナイトクローラーは他の芸人ラジオであまり見られない、特有の個性があるコーナーがある。


『それでは、愛さん。そろそろコーナーの方いきましょ』と石垣さんが言う。

『死ねるくらいあなたが好きってどうしても君言えないのコーナーぁあ!!!』と愛さんが声のトーンをあげて叫ぶ。バックに聞こえてくるのは、10年前に流行ったラブソングがいつも通り聞こえてくる。

 

 ずきりと翔吾の心が痛んだ。


『えー……このコーナーは死ねるくらいあなたが好き!!という片思いを絶賛しているリスナーの恋愛事情を愛さんが時には包み込むような優しさで、あるいは突き放すようなかたちで発破をかける恋愛お悩みコーナーです。それでは愛さん早速メールを読んできましょう。』スラスラと石垣さんがコーナーの趣旨を説明する。


 もとをたどれば、今日の絶賛失恋したての原因もこのコーナーだよなと痛む心を手でさすりながらも翔吾は心の中で悪態をつく。

 直後、嫌な予感が翔吾の頭によぎる。


「まさか………………。普段読まれないんだから今日に限って読まれないよな………………」

(いやだけど、あれはこの番組にとってかなり盛り上がるような感じだし………………いや、無いよな……うん、無い)


「埼玉県、ラジオネーム 万年元年ピンボールさんからのメール」と愛さんがメールを読み上げる。「おっ初めての人じゃん」と石垣さんがレスポンスをする。


 ぞわりと急速に体全体からあわだつ感覚が発せられる。

 なんで今日に限って読まれるんだよ!!!ありえない!!!何で???こんな事ある!?ってか何で俺は聞いちゃったんだよ、今日。このラジオを!!と。


 衝撃、後悔と悲しみと恥ずかしさで翔吾は頭を抱えた。


 そのメールの内容は知っていた。万年元年は翔吾のラジオネームだった。


 そのメールの内容は、簡単に言うと二年間片思いをしている先輩に対して、告白をする。プリンセス線香も応援してくれ。ラジオの放送日に告白するので結果は、メールで送りますという内容だった。


 なんとも痛くて、間抜けで無様なメールだ。そしてそのメールを読んでメーきゃーきゃー盛り上がるパーソナリティの二人。メール待ってるよ~と言う愛さん。


 そんなメールを送れるわけないじゃん。


 ふられたのだから。


 頭の中で思い出したくもない数時間前の出来事が駆け巡りだした。


  あぁああと言う痛々しい嘆きが深くくらい闇の中で虚しく流れていった。



 

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