第5話:妥結

 本当に困った事なのですが、チャネラル卿は私との駆け引きを愉しんでいました。

 私の事を、丁度いい遊び相手だと思ったようです。

 圧倒的に不利な条件で戦うには、チャネラル卿は強すぎる相手でした。

 それでも、私は全力を尽くして必死で戦いました。

 我ながら結構いい条件を引き出せたと思うのです。

 ただ私には分かります、チャネラル卿が手加減してくれたことを。

 私の力を両親に見せつけることができるように、誘導してくれたことも。

 

「ではこうしよう、レイノルズ伯爵家は私が買い取るから、君が借金を返済してくれればいい」


 とてもありがたい事に、チャネラル卿は自分達にも利益が出て、私にも利益が出る方法を提案してくれました。

 チャネラル卿は、両親と兄が放蕩の限りを尽くして失った領地を、買い戻してくれるというのです。

 そして私の領地経営を任せるから、利息と元金を返済するよう言ってくれました。

 普通なら全てを奪う所を、可能性を残してくれたのです。


「その代わり、台所領も与えなければ一時金も与えない。

 当然だが、給金も与えないから、私の妻として必要な出費は自分で何とかしなければいけないが、どうかな?」


 正直とても厳しい条件です。

 長年両親が重税を課したため、領地の民が逃げ出してしまっています。

 荒れ果てた領地からの税収はほとんどないでしょう。

 両親が初期に手放した領地は、次の持ち主が立て直しているところもありますが、そんな領地は買い戻す時に高値となり、返済の足枷になる可能性があります。

 なにより、彼らのレイノルズ伯爵家に対する悪感情が強いです。


「どう考えても元利の返済ができない月もありますが、その間はどうなるのですか?」


 激しい攻防の末、二年間は返済を猶予してくれることになりました。

 しかもその間には利息を免除するという好待遇でです。

 私が「チャネラル卿がこの領地を立て直すなら、初期投資をするはずで、それをなしに再開発できると思う方が馬鹿です、こんな簡単な罠にはハマりません」と言ったのには手を叩いて喜んでいました。

 ソラリス侯爵は感心してくれていましたが、マルガネラ夫人は悔しそうな顔をしていましたから、絶対に再開発の邪魔をしますね。


「では、再開発に必要だと考えている資金額を教えてくれ。

 私が妥当だと思えば、その額を新たに貸し与えよう。

 それも二年間は返済を猶予しよう。

 私もこの領地を手に入れたら、投資しようと思っていた額がある。

 それに近いようなら、両親も君の才覚を認めてくれるよ。

 そうですよね、父上、母上」


 これが、チャネラル卿のマルガネラ夫人に対する最後通牒でした。

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