第45話 ドリーワン・レベル2 第14話
宮沢渉の血のついたノートを、ぼくはあの日廃バスから持ち帰っていた。
妹が怖がらないように、それを別のノートに書き写す作業でぼくは徹夜をした。
妹はドリーに抱きしめられてぼくのベッドの中で眠っていた。
真夜中、ぼくは血のにおいのとれない妹の唇にキスをして、そしてまた作業にもどった。
妹が目を覚ます前にノートを完成させなくてはいけなかった。
妹がもし夢を見ていなかったら、目を覚ました妹がぼくから目を離した隙に、ぼくは消えてしまうのかもしれない。
一度失った大切な者が、ドリーワンを与えられて、今度は大切な者を失ってしまう。
妹を守れるのはぼくだけなのに、妹はぼくをすぐにうしなってしまうのだ。
それがドリーワンのレベル2なのだ。
あのときぼくがドリーに言われるまますべてを手に入れる力を手にしていたら、ぼくは妹を失ったまま生きていかなければいけなかった。
だけど、あのときのぼくが選んだ道は、近いうちにぼくを消して、妹を苦しめてしまう。
ぼくの選択は正しかったのだろうか。
「一度消えてしまった者たちはあちら側に居た方がいいんだ。連れ戻しちゃいけなかったんだ。ドリーワンの不幸は契約者だけで終わらせなければいけないんだ」
棗の言葉が、頭をよぎる。
よだれをたらして眠り、妹を抱きしめるというよりは、悪い寝相の犠牲にしているように見えるドリーの頬をぼくはつねった。
苦しそうな妹の寝顔を見て、ぼくは少しだけほっとした。
妹はたぶん、何かに押しつぶされる夢を見てる。
ドリーがわざと、妹が夢を見るようにそうしてくれているような気がして、ぼくは彼女の頭を棗がするように撫でてあげた。
パジャマのボタンがはずれて小さな胸があらわになる。
その胸にぼくは耳をあてた。
心臓の音は聞こえない。
ぼくの大切な妹たちは同じ顔をしているのに、妹は生きていて、ドリーは生きてはいなかった。
作業を終えたぼくは、今にもベッドから転げ落ちそうな妹のクッションになるべく、床に寝転んだ。
妹が目をさますと、一番大切なものがなくなっていた。
ぼくにのこされた時間は、もうあまりない。
1.ドリーワンは、契約者により個人差があり、様々なタイプに分類される。
2.ドリーワンには案内人が存在するが、すべての契約者が彼女たちによって案内されるわけではない。
3.案内人が契約者を案内する場合、それは契約者の最も大切な存在が失われた後に、その姿を借りて行われる。
4.案内人は、契約者の契機満了もしくは脱落を見届けたとき、次に案内する契約者を自分で選ぶことができる。
5.契約者が、契機満了後に契約を更新した場合、案内人の案内を受けることはできない。
6.契約者が契機満了時にドリーワンを破棄したとき、ドリーワンによって失われ帰還した者たちはその資質や契約如何とは関係なくドリーワンを発現する。
7.契約者は、契機満了時にドリーワンを破棄した後に、もう一度ドリーワンと契約を結ぶことが可能である。その際、レベル1からの発現になるが、過去に学んだルール等を引き継いで始めることができる。
8.契約者は、契機満了時にドリーワンを破棄した後に、ドリーワンと再び契約を結ぶまで、ドリーワンとは異なる能力を与えられる。
9.何人もドリーワンから逃れることはできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます