第30話 ドリーワンワンスモア・ドロップアウツⅣ 笹木舎聡の消失 ③

 昨年11月、香川県坂出市で幼い姉妹と祖母が行方不明になるという事件が発生した。

 18日午後5時半ごろ、自宅近くの坂道で、血液反応が確認された。

 行方不明から丸2日、連日80人態勢で捜索が続けられたが、18日夕方、自宅近くの坂道で血液反応が確認された。


 行方不明になったのは、坂出市林田町の山下 清さん(43)の長女・茜(あかね)ちゃん(5)と二女・彩菜ちゃん(3)、祖母で隣に住む三浦啓子さん(58)の3人。

 3人は16日午前8時前、三浦さんの自宅から行方不明になっているのがわかり、自宅の寝室で大量の血痕が発見された。

 三浦さんの自転車と携帯電話もなくなっているが、警察の調べで、自転車の鍵は、自宅近くで姉妹の父親が発見していたことがわかった。


 携帯電話は、坂出市内の同じ地域から電波を発信していることが確認されているが、17日夜から18日朝にかけて電波が弱まっていて、電源が切れたという。

 また、警察は18日、自宅近くの道路の血液反応を調べたところ、午後5時半ごろ、自宅そばの坂道で血液反応が確認された。


 姉妹の父・清さんは18日、報道陣に対し「一刻も早く見つかってほしい」と話し、3人の無事を祈っていた。


 香川の事件。

 あの事件では3人の無事を祈る父親が犯人だと何百人という人々が今回の事件のように日記に書き記したが、しかし実際に逮捕されたのは親戚関係にある第三者であった。

 不謹慎に事件を楽しみ推理し、父親が犯人だと書いた者たちは、けれど謝罪文を書くことはなく、おそらく自分の推理が外れたことを口惜しく感じただけであったろう。


 名探偵コナンの服部や金田一少年の明智警視といった、探偵漫画の主人公の引き立て役のように。


 ミクシィ探偵笹木舎聡は、彼らのように浅はかに名探偵ごっこの日記を全体公開で垂れ流すようなことはしない。


 ただニュースとそれについて書かれた日記から推理を楽しみ、犯人を導きだすと、彼が唯一心を許すマイミクシィ、加藤麻衣という名の少女にメッセージでひっそりと披露する。


 ところで、数百件以上日記が書かれてくると、第三のパターンの日記が登場する。



「まずは 亡くなった男の子のご冥福を…。

 釣りなんでしょうが 【母親が殺した】とか 全公開日記で書いてる人達…。

 母親基地害とか平気で書き…。

 俺に言わせりゃ お前ら基地害だよ。

 勝手にコナンごっこするのは良いが、まだはっきり事件の犯人特定されてないんだから…。

 オナニーは隠れてやっとけ」


 名探偵ごっこを批判する輩が現れる。

 そればかりかわざわざ名探偵ごっこの日記に批判のコメントを書きに行く輩もいる。


 まったく人間という生き物は暇な生き物だ。

 何をそこまで不愉快に感じることがあるのか、笹木舎聡にはわからない。


 名探偵ごっこする者も、事件に心を痛める者も、名探偵ごっこを批判する者も、結局は事件を楽しんでいるだけにすぎない。

 その証拠としてニュースについてわざわざ全体公開で日記を書くという行動がある。

 同じ穴のムジナだということがわからないのか、と彼は不思議にさえ思う。



 日記を読み進めていくうちに、


「俺が防衛省に居った頃、西区から隣接する前原市にかけては、カルトの巣窟やった。

 あのオウム真理教をはじめとする密教系カルト(真言律宗)の集会所、拝み屋が多数居た。

 さらには、あの「酒鬼薔薇聖斗」が出所後父親と潜伏してた(今現在、潜伏してるかどうかは不明)。

 根拠も証拠も無いが、既成事実から、犯人は真言律宗などのカルト関係者やと思う」


 容疑者はカルト関係者、といった妄想まで現れはじめた。



 容疑者はもう絞られている。


 では、一体どうやって容疑者は犯行を行ったか、凶器は何であるのか、笹木舎聡は三度ニュースと、


「福岡市西区の市立小1年富石弘輝君(6)殺害事件で、弘輝君の首にはひものようなもので二重に絞められた跡が残っていたことが19日、分かった。

 県警西署捜査本部は、強固な殺意で弘輝君が殺された可能性があるとみて、19日に司法解剖し、詳しい状況を調べる。

 調べによると、弘輝君は18日午後4時25分ごろ、西区の小戸公園の公衆トイレの外壁に背中を持たせ掛けて座るような形で発見された。死因は頸部(けいぶ)圧迫による窒息で、ひもで絞められたとみられる二重の跡があった。

 凶器とみられるものや弘輝君が持っていた携帯電話は見つかっていない。

 弘輝君は18日午後3時15分ごろ、母親(35)と公園を訪れ、母親が同4時前、現場のトイレに入った際、行方不明になった。母親は目を離していた2、3分の間に、いなくなったと話しているという」


 日記を読み進めていく。


「凶器はケータイ。

 小学生が首からぶら下げてたストラップよねぇ、首から取って両端持って締めれば…ほら2重」


 なるほどである。


 被害者が首からぶら下げていた携帯電話が事件後行方不明になっている。


 その携帯電話につけられ、被害者の首にぶらさげられていたネックストラップが凶器であるなら、凶器が発見されなかったこと、携帯電話が行方不明になったこともうなづける。

 GPS機能付きの携帯電話を持ち去ることで、遺体の発見を遅らせることにもなり、同時に凶器となったネックストラップも現場から持ち去ることができる、というわけだ。


 さて、探偵は事件の舞台となった公園へ足を運ぶことにした。


 小戸公園。

 昭和17年に開園された市内でも有数の風光明媚な海岸線を共有する総合公園である。西部水処理センター隣の北側と、小戸ヨットハーバー隣の南側のスポットがある。

 博多湾を前面に能古島を間近に見る北側は、広大な芝生広場があり休日には家族連れやグループがボール遊び等に興じ、遊具施設では子供たちが大勢遊ぶ姿が見られる。

 南側は小戸ヨットハーバーとそれに続く海岸線、松林と遊歩道。散策するにもいい場所である。


 グーグルのストリートビュー機能は使えなかったが、その大きさは航空写真で確認することができた。


 小戸公園は、公園と聞いてイメージするものよりはるかに大きい。


「福岡市西区の小1男児絞殺事件で、市立内浜小1年、富石弘輝君(6)の発見場所は、トイレの外側と、外側の柱との約50センチのすき間だったことが分かった。

 人1人がなんとか通れる程度の空間で、公園利用者から見えにくい場所だった。

 福岡県警西署捜査本部は犯人が発見を遅らせようと、弘輝君をすき間に押し込み、隠したとみて聞き込みを進めている」


 遺体が発見されたのは、50センチの隙間だという。


「調べでは、トイレは建物の四隅の外側がL字に切れ込み、その前にそれぞれ柱がある。発見場所の前には雑木が生い茂っている。


 母親は18日午後3時半ごろ、アスレチックコーナーの大型遊具で遊んでいた弘輝君を残し、十数メートル離れたトイレに行った。

 2、3分後に戻ったが、姿が見えなかった。


 通りがかりの人に「子供がいなくなった」と告げ、一緒に捜索した。捜索当初もトイレ周辺を捜したが見つからず、別の場所に移ってから、一緒に捜索した男性(62)が再びトイレに戻り発見。


 母親が使ったトイレだった。


 弘輝君は、女子トイレ側のすき間で、ひざを曲げ、座り込んだ状態で外壁にもたれかかっていた。

 男性によると、くつは脱げた状態で弘輝君のそばにあり、「すき間に押し込まれたように感じた」という。


 母親は、発見前の午後3時57分に「子供がいなくなった」と110番した。


 一方、現場周辺に争った形跡や、遺体に抵抗時にできる傷はなかった。

 犯行時間とされる18日午後3時半から約30分間に男児の叫び声を聞いた人も確認されていない。


 県警は司法解剖の結果、死因を窒息死と断定。

 背後からいきなり、首をひも状の物で絞められた可能性が高いとみている。

 また、県警は19日までに公園内で携帯電話を発見し、押収した」



 パズルのピースはすべて集まったと言えるだろう。






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