異世界にだって政治は必要でしょう。

くるとん

第1編 Parallax

第1章 現実

001 平和な世界

未来。遠い、遠い未来の物語。


ここは四方を海に囲まれた国、トマト。人口は約5000万人、世界トップの経済大国。


シンギュラリティから急速に発展した科学技術は、人々の暮らしを一変させた。特に発展したのが人工知能AI仮想現実VRの技術であったため、教科書には「AI・VR革命」と紹介されている。


特にゲーム業界は、これらの技術を用いて業界規模を爆発的に拡大している。そのなかでも全世界10億人のユーザーを有するVRゲームFWエフダブルは、「生活できる異世界」のキャッチコピーとともに、世界的な認知度を誇っている。その運営は、世界最大のIT企業インテグラルが担っていた。


FWは、いわゆるフルダイブ型のゲームであり、ゲーム世界をまるで現実のように体感することができる。基本的には敵を倒し、ストーリーを進めるRPGであるが、キャッチコピーにもある通り、スポーツをしたり料理をしたりと、まさに自由に生活することができる。そのため、モンスターが襲来できない安全圏セーフティゾーンで、ただのんびりと異世界生活を満喫する、なんてことも流行っている。


ちなみに、ゲーム世界にいる間、現実世界の身体はというと、特殊なバリア空間パーフェクトスフィアによって保護されている。その強固な安全性により、運営開始から20年間、一度も大きなトラブルは発生していない。これもFWが人気の理由であろう。


現在の現実世界は平和そのものである。そもそも技術革新により需給問題や治安問題をはじめとする諸問題がすべて解決しているため、争いようのない世界ともいえる。この世界には「平穏」という表現がとても似合う。


電子書籍を閉じ、VRデバイスを装着する赤髪の青年。彼の名は新井心あらいこころ

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