クラシック音楽あれこれ

江戸嚴求(ごんぐ)

第1話:暗闇に響け、ブルックナー

私の数少ない趣味に音楽鑑賞がある。今でこそJ-POPなども聴いているが、20歳から20代半ばまではクラシックそれも交響曲一辺倒だった。

特にベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーは繰り返し繰り返し聴いていた。

ブルックナーは最初なかなか理解できなかった。

それでも当時通い詰めていた新宿区立図書館の視聴覚室で、朝比奈隆/大阪フィルのレコードで第8番を何度も何度も聴いてようやく面白い!と思った。

評論家で大のブルックナー好きでも知られる宇野功芳の言う通りだ。ブルックナーの交響曲というのは、最初はやたら長大なだけで退屈に感じる。

ところがある日突然、悟ったようにその面白さがわかりのめり込むようになる、と。

実際この時の体験が元で、私は可能な限りの指揮者やオーケストラによるブルックナーの第8番(略してブル8)を聴くようになった。

私がローンを組んでまでアナログレコードも聴くことができるCDコンポを購入したのは、それから間もなくだった。

クラシック音楽全般を自宅で聴きたかったこともある。それ以上に、ブルックナー体験を常に味わいたいという欲望もあった。

そう、正にそれはブル8という高峰を一歩、一歩味わい尽くそうという欲望に他ならなかった。

私は、ベートーヴェンの交響曲でクラシックの魅力に取り憑かれたように、ブル八の前にひれ伏した。

雰囲気を出すため夜に聴く際は、明かりを消した。まるで本当の演奏会へ出向いたかのような臨場感を、敢えて演出したのである。

特に心に響いたのは、ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルによる名演だ。最後の音が鳴り終えた瞬間、思わずブラボー!と拍手していた。

一人きりで何やってるんだろうって感じだ。とはいえ、私にとっては往年の名指揮者がたった一人のために振ってくれたような体験だった。

あれだけブルックナーを愛せた瞬間があったことを、心底誇りに思う。


※このブログは、毎月第2、第4土曜日に転載予定です。


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