02 右耳の飾り

 人混みのなか。すれちがったときに。


 一瞬だけ、光った。右耳の飾り。


 それが、忘れられなくなってしまった。いままで、男性なんて生き物は死に絶えればいい、世界中が女だけになればいいのにと思いながら生きてきたのに。


 あの右耳の飾りが。すれちがう前の姿形が。どうしても、脳裏に焼きついてしまった。


「どうしたの、行くよ?」


「あ、うん」


 友達。


 女友達はいるけど、異性と仲良くなったことはなかった。仲良くなりたいとも、思ったことはない。つい、さっきまでは。


「ねえ」


「うん?」


「彼氏ができるって、どんな感じなの?」


 友達に訊いてみる。


「あら、珍しい。色恋の話なんて」


 一生、一人で生きていくと思ったのに。いま。どうしても、振り返って声をかけたい衝動に駆られる。


「くそよ。はっきり言って、うんこよ。うんこ。男は全員死んだほうがいいわ」


「そっか」


 ベリーショートの髪型にしてるから。男性受けがわるいとか、よく言われた。それでよかった。いままでは。


 でも、今は。ベリーショートの髪型を、ちょっとだけ後悔している自分がいる。きっと、すれちがったときに、女性とも思ってもらえなかっただろうから。


「じゃあさ、なんでそんな、きたないのと付き合ってるの?」


「そりゃあ、うんこしないと生きていけないでしょ。そんなもんよ」


「そんなもんか」


「どうしたの。顔を朱くして」


 ちょっとだけ、涙がこみあげてくる。それはすぐに、まぶたの下側、どこか分からないところへ抜けて消えていった。

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