アルバトロスとイーグルの大冒険1

渋谷かな

第1話 アースとイール。

「俺の名前はアルバトロス! 人は俺のことをアースと呼ぶ!」

 少年の名前はアース。

「ただ長いから略されているだけでしょ。」

「ガーン!」

 ツッコミを入れる少女の名前はイール。

「イール、そんなきつい性格だからイーグルって呼ばれるんだぞ!」

「いいじゃない。ベーグルみたいで美味しそうな名前だわ。」

 少女の方が落ち着いていて動じなかった。

「まあ、どうでもいい。既に俺たちはカスタマイズ済み。向かう所敵なしだ!」

「そうね。私たちの友情と努力の結果が勝利を導きだすわ。」

 アースとイールは仲良しだった。

「俺たちが目指すモノは冒険者として一番になることだ! やるからには一番に拘らなければ! 目指せ! 最強の冒険者!」

「私たちに二番という文字はない。二番ではダメなんです。」

 二人の目的意識は高く共有されていた。

「大会やクエストで一番になってお金を稼いで、俺たちの様な貧しい子供たちに寄付して助けるんだ!」

「やっちゃえ! アース!」

 アースとイールは貧しい孤児出身だった。


「さあ、どのクエストに参加しようかな?」

 アースたちはクエストの一覧を見ている。

「面白いのがあるわよ。」

 イールが興味を引くクエストを見つけた。

「どれどれ? 先着一名様、卵99円セール。お得だな。」

 身近で共感できる安売りスーパーでよくあるクエストである。

「ルールは無条件。先に並んでいる人間を倒して、スーパーの開店時間に先頭に並んでいた者の勝ち。」

 この世界のルールは単純だ。強ければ勝ち、弱ければ負ける。ただそれだけだ。

「よし! エントリーするぞ!」

「おお!」

 アースたちは先着一名、卵99円クエストに参加することにした。

「ゲゲゲッ!?」

「どうしたの?」

「このクエストのスーパー!? 開店時間が9時だ!?」

「ええー!? 現在8時30分よ!?」

 クエスト終了まで後30分しかない。

「こうなったら飛び入り参加だ!」

「おお! 絶対に卵を99円で買うんだ! 定価199円なんかで買うもんですか!」

 どこか主婦臭いイールであった。二人はスーパーに急いで向かう。


「さあ! 開店時間まで後15分! 果たして先着一名の卵99円は誰の手に渡るのか!? 現在の先頭のお客様は勇者ブレーブさんです! クエスト解説はコメンさん。司会は私、モデがお伝えします。」

 クエストをSNSでライブ中継する専門の業者や司会者や解説者もいる。

「99円の安売り卵は俺の物だ! 10個のうち1個も誰にも譲らんぞ! 勇者の名にかけて! 勇者の俺は絶対に負けられないのだ!」

 つまらない勇者のプライドだった。

「まったく馬鹿馬鹿しいですね。勇者なら卵99円のために戦わないで、魔王とかモンスターを退治していればいいのにね。」

「そうですね。最近の勇者は財布が寂しいんでしょう。」

 勇者を見て時世を悲しむ司会者と解説者であった。

「さあ! 後10分でスーパーの開店時間です! もう一掃されて先頭に並ぶ勇者に戦いを挑む者はいないのか!?」

 現在、時刻は8時50分。

「どうやら卵は俺の物だな。ワッハッハー!」

 勝利を確信した勇者。

「ちょっと待った! 俺たちが参戦する!」

「なに?」

 そこにアースとイールが現れる。

「なんだ? 子供か。激安卵は俺の物だ! 怪我をしたくなければ子供は引っ込んでいろ!」

 一喝してアースたちを脅す風上にも置けない勇者。

「怪我をする? そんなことはやってみないと分からないじゃないか!」

「そうよ! 子供だから、年下だからって舐めないでよ! そのバカにした子供にあんたは負けるんだからね!」

 可能性と挑発をする子供たち。

「なんだと!? いいだろう。ガキども! この勇者様に歯向かったことを後悔させてやる!」

 勇者ブレーブはアースたちと戦うことにした。

「手加減はなしだ! 俺様を怒らせたおまえたちが悪いのだ! 生卵がゆで卵になってしまっても仕方がないと諦めてやろう!」

 勇者は魔法力を集中して高めていく。

「くらえ! 勇者の炎魔法! ブレーブ・ファイア!」

 勇者は炎で攻撃する。ただ勇者の炎を英語読みしただけであるが、普通のファイアよりはカッコイイ。

「ドッカーン!」

 見事にアースとイールに命中して火柱が上がる。

「見たか! 勇者に歯向かうから子供の丸焼きになるのだ! これで卵は俺の物だ! ワッハッハー!」

 子供たちの命より特売品の卵が大切な勇者。

「それはどうかな?」

「なに!?」

 炎の中からアースとイールが姿を現す。

「バカな!? 俺の炎を食らっても平気だというのか!?」

 勇者は自分の目を疑った。

「あれぐらいの炎は問題ない。自分の属性を炎に変えれば、体力も回復できるしね。」

「なに!? 属性を変えただと!? バカな!? そんなことはあり得ん!?」

 アースたちはプロパティ・チェンジのアビリティを持っていた。

「そんなに驚かないでよ。勇者様。私たちは必死に、本当の地獄を生きてきたんだから。たかが99円セールの卵に並ぶせこい勇者様の火なんて何とも思わないわ。」

「なんだと!? 俺様の炎がせこいだと!? ふざけるな! まぐれだ! 俺様の炎が子供如きに防げるわけがない!?」

 得体の知れない子供たちにたじろぐ勇者。

「勇者様に炎の倍返しだ!」

「やっちゃえ! アース!」

 アースは全身から炎を醸し出す。

「なんだ!? この強大で威圧的な炎は!?」

 勇者は子供の炎にビビっていた。

「ビビっているの? 勇者様。子供と思ってバカにしたのは勇者様だよ。これは地獄の炎なんかじゃないよ。」

「なんだと!?」

「これは冥界の炎だ! 死んで冥界の亡者たちに謝ってこい! アンダーライング・ファイア!」

 孤児として生き地獄を生きてきたアースだから使える冥界の炎であった。

「ギャアアアアー!」

 勇者ブレーブは炎に怖気ついて逃げていった。

「子供だからって、なめんなよ!」

「やったー! 私たちの勝利ね! これで卵は私たちのモノね!」

 勝利を喜ぶアースとイール。

「おおっと! 残り1分で番狂わせがありました。勇者ブレーブに勝った子供たち、アースとイールが先頭に立ちました。これで先着一名様の卵99円の権利は子供たちのモノだ!」

「私もビックリです。あんな子供たちいるんですね。いったいどんな地獄を見てきたんでしょうか?」

 司会者のデモさんと解説のコメンさんもビックリしていた。

「あの・・・・・・卵をくれませんか? ゴホゴホ。」

 そこに一人の病弱そうな老人が現れた。

「え!?」

「なんですって!?」

 老人の発言に戸惑うアースとイール。

「ゴホゴホ・・・・・・最近、栄養のあるものを食べていなくて死にそうなんです。死ぬ前に新鮮な卵が食べたいんです。しかし私は100円しか持っていません。」

 老人は病弱で貧乏だった。

「どうぞ、おじいさん。先頭を譲ります。」

「いいんですか!?」

「はい。私たちは卵ぐらい、いつでも自分たちで取りに行けますから。」

「ありがとうございます。」

 こうしてアースとイールは先着一名様のお得な卵を老人に譲った。

「なんていい話なんだ! うおおおー! 感動した!」

「こんな若者、今時なかなかいませんぜ! ウルウル!」

 司会と解説のモデとコメンは感動して泣いた。

「惜しかったな。卵。」

「いいじゃない。小さいことだけど良いことをしたと心がきれいになった気がするわ。」

「そうだな。よし! 決めた! 今度のクエストは卵を取りに行こう!」

「私、フェニックスの卵がいい! シミとシワを取り除いて、ピチピチのお肌を取り戻すの!」

「よし! 出発だ!」

 アースとイールの大冒険は続く。

 つづく。

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