あなたのハートをいただきます!

渋谷かな

第1話 大泥棒!?

「あなたですか? 俺を呼んだのは?」

 一人の少年が姿を現す。

「まさか!? 君が!?」

 一人の老人が少年の姿を見て意外に若かったので驚いている。

「はい。俺が天下の大泥棒、怪盗パルンです。」

 現れたのは世間を騒がせている大泥棒のパルンだった。

「あなたのハートをいただきます。」

 パルンの盗むモノは、心だった。

「無理だ!? おまえなんか若造に、この老いぼれの歪んだ心を救える訳がない!?」

 老人は生きることに疲れ心が腐っていた。

「それはどうでしょう? 何事もやってみないと分からないものです。それに・・・・・・既に俺はあなたの心の扉を開けている。」

「なに!? それはどういうことだ!?」

「あなたは俺が若い少年というだけで、絶望し心を乱して多くのヒントを俺に教えてしまった。既にあなたは俺に心を開いている。後はあなたの悲しい心を盗み出すだけ。そうすれば元気に笑顔で暮らせるようになりますよ。」

 あっさりと人間の心理分析をしてしまう大泥棒のパルン。

「君はいったい!?」

「俺は臨床心理士見習いですよ。代々心理学の家系なんで。」

 パルンの正体は臨床心理士だった。

「話してください。何を憂いて悲しんでいるのか。他人に自分の悩みを少し話すだけでも気持ちが楽になり幸せになれますよ。」

「でも・・・・・・。」

 自分のことを話すことに抵抗する老人。

「分かりました。いきなり現れた俺を信じられないのも分かります。それではこうしましょう。俺がテレキネシスであなたの心に入り込みます。」

「テレキネシス?」

「一種の催眠術です。テレパシーとかサイキック・インスピレーションと言われている様なものです。痛くはないので安心してください。」

 臨床心理士は超能力者のようなものでもあった。

「それでは、3、2、1、あなたの心の中へ。」

 パルンは老人の心の中へダイブした。


「死にたい。生きていても楽しいこともない。家族もいない。ああ、私は一人ぼっちだ。」

 老人は日々、このような悲しいことばかり考えて暗い気持ちで生きていた。

「これがおじいさんが俺を呼んだ理由か。」

 パルンは老人の精神世界を理解した。

「今までにたくさんの人々の精神世界を見てきた俺には治療することは楽勝だけどな。」

 臨床心理士パルンの治療が始まる。

「まず暗い気持ちだと家から出かけないので足腰も弱くなってしまう。記憶を改ざんして老人は毎日散歩をするのを趣味にしてしまおう。」

 パルンは老人の記憶をドンドン変えていく。

「散歩道は通学路にしよう。純粋な子供たちなら、まだ心も止んでいないから他人をいじめたりはしないだろう。無邪気で明るい笑顔の子供たちを見ていれば、老人の心にも温かい花が咲くはずだ。」

 パルンが盗むモノは老人の悲しい心だった。

「最後に老人の悲しい記憶を全て消してしまえば、これからの前向きな人生がまっていますよ。できた。これで良しっと。」

 パルンは老人の心の治療を終えた。


「確かにあなたの心をいただきました。」

「な、な、なんだ!? この老いぼれの心に温かい気持ちが湧いてくる!? 顔が笑顔になっていく!?」

 老人は自分の変化に戸惑っていた。それどころか幸せに満ち溢れていた。

「良かったですね。これからは悲しいことを考えずに、前向きに笑って生きてくださいよ。」

「ありがとう。パルン。まさか、こんな若造に幸せを教えられるとは。」

 老人はパルンに感謝する気持ちしか持っていなかった。 

「それでは失礼します。睡眠不足はお肌に悪いので。」

 パルンは瞬間移動の様に一瞬で姿を消した。 


「またも大泥棒パルンが老人のお宝を盗むことに成功しました!」

 テレビのニュースで噂の泥棒のニュースが放送されている。

「ワッハッハー! スゴイな! 大泥棒パルンは!」

 ニュースを見て馬鹿笑いしている少年。少年の名前は佐藤一郎。

「でも泥棒は泥棒でしょ? 悪い人には違いないじゃない。」

 否定するのは一郎の横にいる少女。少女の名前は鈴木凛。

「違うよ。パルンは盗めるかどうかを試しているだけで、お宝も持っていかないし、誰も傷つけていない。そういうのを義賊って言うんだぜ!」

 一郎はパルンの正当性を擁護する。

「義賊でも泥棒は泥棒じゃない。やっぱり悪いことよ。」

 凛は堅物なので正義に拘るのだった。

「おお! 凛、おかえり。」

「ただいま。お父さん。」

 凛の父親が現れた。

「鈴木警部。またパルンに逃げられたんですね。」

「ヌヌヌヌヌッ!? 黙れ! 一郎!」

 凛の父親は警察で働いていた。だから娘の凜が正義感が強いのかもしれない。

「またな。凜。それではまた直ぐに会いましょうお父様。」

「誰がおまえのお父様だ! 娘はやらんぞ! 絶対にやらんからな!」

 おちょくるだけおちょくって一郎は笑顔で去って行った。

「はい。もしもし。」

 その時、電話が鳴り鈴木警部がでる。

「なに!? パルンから盗みの予告状だと!? 分かった! 直ぐに現場に向かう!」

 電話の内容は大泥棒パルンからの予告状だった。

「凜! しっかり戸締りして寝るんだぞ! 行ってきます!」

「お父さん! 今日こそはパルンを捕まえてね!」

 こうして新たな事件は動き出そうとした。

 つづく。

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