第2話 三浦くん、異世界へ
胴上げで上げられた体が、妙に長く宙に舞う──落ちないどころか、どんどん上に上がっていくような感覚に陥る。
うん……おかしいぞ? 周りの声をどんどん遠くなっていくようだし、なんか感覚も変になってく。だけど俺は気にしなかった。なぜなら俺の心はすでに、来週行く予定である、地下アイドルのキサラちゃんのライブのことで頭がいっぱいだったからだ。
しかし、そんな邪な考えをしているバチが当たったのか、いきなり地面に叩きつけられる。あまりの痛さに怒涛の怒りが吹き出してくる。
「コラっ!! 胴上げしている主役を落とす馬鹿がどこにいるんだ!! ものすごく痛いぞ!!」
しかし、そこに俺の知ったチームメイトはいなかった。いるのはむさいおっさんと、髭のおじいさん、それと三人の若者だった。
「大丈夫ですか、サッカーの勇者よ」
おっと、どうやらもう一人いたようだ。それはキサラちゃん似の美少女だった。
「はい、お嬢さん、体はかなり丈夫な方です」
無茶苦茶痛いが強がりでそう言った。それより、さっきこの美少女、変なこと言わなかったか、サッカーのなんとか──
「女王よ、その者が勇者と決まったわけではありません。こちらにも候補がいますので」
「そうでしたね、まだ、この四人のうちの誰がサッカーの勇者かわからないのでしたね」
女王と呼ばれた美少女は、コホンと仕切り直し、俺を含めた四人の若者にこう告げた。
「よくこの世界へやってきました、サッカーの勇者候補たちよ」
そう言われて、青い髪の若者が質問する。
「サッカーはわかりますが、勇者候補とはどう言うことですか、説明してもらえると助かります」
「そうだ、そうだ、こんなところに無理やり連れてきやがって、ちゃんと説明しやがれよ!」
そう息巻いたのは赤髪の青年だ、ちょっと柄が悪そうで俺の嫌いなタイプだな。
「ぼ……僕は、そんなことより早く家に返して欲しいです……」
オドオドと喋っているのは背の低い黄色い髪の若者で、一見、女の子にも見えるほど華奢である。
三人の言葉に女王と呼ばれたキサラちゃん似の美少女は話し始めた。
「この世界は大魔王ブンデスリーガーによって支配されようとしています。伝承ではそれを阻止する勇者……サッカーの勇者が舞い降り世界を救うと言い伝えられているのです。そして今日、この日、勇者が舞い降りる日にここへやってきたのがあなた方、四人と言う事なんです」
ブンデスリーガーとはまた妙な名前を……。
「この中の一人がサッカーの勇者ですか、ならば私かもしれませんね。私は元の世界ではエスパーサッカーの世界最高のエースストライカーでしたので」
青い髪の男の言葉に赤髪が反論する。
「何がエスパーサッカーだ。俺様は喧嘩サッカーの頂点。世界最強の殺し屋と恐れられた最強サッカー番長だぞ!」
そんな二人の言葉に、大人しそうだった黄色髪の男も黙ってられなかったのか発言する。
「あの……実は僕も戦国サッカーの名軍師と呼ばれてまして……個人としては大したことないのですが、司令塔としてはなかなか凄い存在ではありました」
エスパーサッカーに、喧嘩サッカー、それに戦国サッカーとはまたよくわからんサッカーばかりだな……普通のサッカーをやってましたとは恥ずかしくて発言できないではないか。
「それで、あなた、あなたはどんなサッカーをしていたのですか?」
キサラちゃん似の美少女にそう聞かれてドキドキする。ここは恥ずかしくても言うしかない。
「えっ俺か!? え〜と、俺は普通のサッカーだよ」
嘘つくわけにもいかない。俺は正直にそう答えた。その言葉を聞いて、周りの全員がザワザワとざわめき始めた。
「普通とはなんだ? 普通のサッカーとは意味がわからないのだが……」
「バトルサッカーのことではないのか?」
「いや、普通という意味では魔法禁止の戦士サッカーの方が近いのではないか」
「いやいや、魔法を使用しないサッカーなど邪道だろ。俺は戦士サッカーは認めない!」
思い思いに言ってるけど、そのほとんどの意味がわからなかった。
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