第17話  ザワつく血の匂い…

金雀枝(えにしだ)が腕を怪我した加賀を支えながら

二人はなだれ込むようにして玄関の中へと入り


二人の後ろでに勝手にしまった玄関のドアからは

バタンッ!という重々しい音と共に

カチッ…という鍵の閉まる乾いた音が広い玄関ホールに響き渡り

加賀は少し安堵したが――


「…金雀枝さん…?」

「…ッ、」


加賀が黙って自分の隣に立つ金雀枝に目をやれば

金雀枝は俯(うつむ)き、片手で口と鼻を塞(ふさ)ぐようにしながら

苦しそうに呼吸を乱しており――


「ッ!金雀枝さんっ?!大丈夫ですかっ!?」

「ッ、ぁ…?だ…大丈夫…、ッ、大丈夫だから…ちょっと離れて…っ、」


―――ッ、なんだコレ…っ、

   何で俺…加賀君の“血の匂い”を嗅いだだけでこんな……



   “発情”したみたいになってんだ??




金雀枝は今まで経験した事の無い感覚に困惑し…

まるで加賀から逃げる様にして金雀枝は加賀から背を向け

覚束(おぼつか)ない足取りで加賀から距離を置こうとその場から歩きだそうとするが――


「ッ、あっ…?」


しかし金雀枝が一歩前へと足を踏み込んだ途端

ガクッ!と…急に足の力が抜けたかのように金雀枝の足が膝から崩れ落ち――


「ッ!?金雀枝さんっ!」


加賀が咄嗟に金雀枝の二の腕を掴み

頽(くずお)れそうになっていた金雀枝の身体を、自分の方に引き寄せながら支えるが…


「――ッ、大丈夫ですか…?立てないようでしたら…俺に掴まって下さい。」

「ハァッ…、ハァッ…、ッ、だい…じょぶ…っ、はっ、ぅ…

 は、なし…ッ、」


―――ナンダコレ??ホント何なんだよ…っ、

   今まで…誰かの“血の匂い”を嗅いだだけで

   こんな風になった事など無かたのに…っ!


金雀枝は全く力が入り切ら無くなった自分の身体に焦り…

背後から自分の事を抱き支えている加賀の腕の中でもがきながら

何とか自力で立ち上って加賀から離れようとするが身体が全く言う事を聞かず…


それどころか金雀枝の身体は加賀の“血の匂い”に中てられ

金雀枝が今、最も考えたくない身体の“奥”までもがジンジンと疼(うず)きだし…


「ぁ…」


―――マズイ…ッ、


血を直に吸わなくなってから長年忘れかけていた“あの忌(い)まわしい感覚”に

金雀枝の顔は青ざめ…

身体は小刻みに震え出す…


そんな金雀枝の様子に加賀は戸惑い

自分の腕の中でもがく金雀枝を更に強く抱きしめながら加賀が聞き返す


「金雀枝さん…具合が悪いようでしたら俺がベッドまで運びます。

 寝室はどちらですか?」


見れば金雀枝の呼吸は先ほどよりも更に苦し気に乱れ、頬は上気し…

額やスーツの襟首から覗く金雀枝の首筋からはほんのりとピンク色に色づき

しっとりと汗ばんでいる肌が見てとれ――


「…ッ!」


加賀に“その気(け)”は無いが――

今の金雀枝から猛烈な“色香”を感じ取ってしまい…

加賀が無意識にコクン…と喉を鳴らしながら

呼吸を乱し、ぐったりと項垂(うなだ)れている金雀枝の姿を思わず凝視してしまう…


―――ッ!馬鹿か俺…っ!、ッなに男相手に興奮し始めて――


加賀は動揺を隠せず、思わず金雀枝を抱きしめる腕に力が入り…


金雀枝はその顔を微(かす)かに苦痛に:歪(ゆが)めながら

更に強くなった身体の疼きに戦慄(わなな)き


加賀の腕の中から逃れようと

金雀枝は力の入らない身体を捩(よじ)って必死に暴れだす…


「あっ…やだっ、ハァッ、ハッ、はなし、て…っ、ン、く…、

 おねが、ぃ、離して…っ!加賀く…」

「――ッ、金雀枝さん…っ!」


―――はやく…ッ…早くコイツから離れないと……



   この“血の匂い”から…っ!

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