第14話 ハンター。
狂ったメッセンジャーの件から二日が過ぎ――
―――あの日からイーサンからは何の音沙汰(おとさた)も無いという事は――
やはり私の予想は間違っていなかったという事か…
金雀枝(えにしだ)がデスクに座り、書類とパソコン画面を見比べ
更にはスマホで取引先と思われる場所と連絡を取りながら
頭の中で様々な考えを整理していく…
―――アイツは何かに巻きこまれているかあるいは――
兎に角彼が今、自由に動けない状況なのは確かだろう…
ヴァンパイアの中で――私の次に力のあるハズの彼が動けない状況というのは
いささか気になるところではあるが――
金雀枝が通話を切り、更にスマホで別のところに電話をかけながら
その表情は微かに曇る…
―――何にせよ…まだ時間はある…この間に私は決めなければ――
眷属(けんぞく)以外で私に残された数少ない選択肢の一つ…
“ハンター”を使うかどうかの――
表面上、淡々(たんたん)と仕事を熟(こな)す中…
金雀枝の頭の中では“ハンター”を使う事へのリスク計算が加速する…
―――彼等を使うのは私にとっても相当なリスクがある…
何しろ私は五百年程前に一度…
彼等の一人に首を跳ねられた事があったからなぁ~…
いやぁ~…あの時は流石に焦ったし、痛かった…
金雀枝が当時の事を思いだし、首の周りを手で擦(さす)りながら
苦笑を浮かべて何食わぬ顔で通話相手と仕事の話を進めていく
―――どっちにしろ…“敵の敵は味方”――とはならないだろうが――
それでも…“闇に生きる者を殺すプロ”が
“狼の群れ”まで現れたこの日本で場を引っ掻き回してさえくれれば――
少なくとも“狼”も“ヴァンパイア”も
私“だけ”を構っている余裕などなくなるハズ…
「…はい…はい…では後日改めてコチラからお電話を致しますので――」
―――そうなれば――多少なりとも私一人でも対処がしやすく――
「…では失礼いたします。」
ピッと再び通話を切り、金雀枝が椅子の背もたれに寄り掛かりながら
軽く一息ついたところで社長室のドアがノックされ
乾(いぬい)が社長室に顔を覗かせ、金雀枝の姿を確認すると同時に声をかけた
「――社長、もうじき会議のお時間です。」
「分かった。今行く。」
金雀枝はそう言うと、先ほどチェックを済ませた書類を手に持ち
乾の待つドアに向かって歩き始めた…
時刻は20時半を過ぎ――
仕事を終えた金雀枝が社長室で帰り支度を始めた丁度その時
『夕食がまだでしたら…これから一緒に焼肉でもどうですか?』と
突然電話で広尾ホールディングの社長、広尾からの誘いを受け
金雀枝はソレに快く応じ、広尾との約束の場所に車で向かう事となったが――
「…加賀君はともかく…何でお前まで一緒にくんだよ…乾…」
金雀枝が後部座席で自分の隣にシレっと座る乾をジト目で見やる
「まあまあお気になさらず。焼肉でしたら人数多い方が楽しいでしょ?
あ、飯島さんもどうです?」
ジトっと自分の事を見つめ続ける金雀枝を無視し
乾が運転手である飯島に声をかけるが
「…いえ…私は――」
「そう仰(おっしゃ)らず…社長の奢(おご)りですよ?」
「…は?」
「ならお言葉に甘えて…」
「飯島さんっ?!」
普段滅多に誘いに乗らない飯島が誘いにのった事に驚き
金雀枝がルームミラー越しに驚いた表情を飯島に見せる
すると飯島が申し訳なさそうな表情を見せ――
「…すみません…調子に乗りました。私の事はお気になさらず――」
「!いや、いいんだよっ?!飯島さんも一緒に食べよう、焼き肉っ!」
「…いいんですか?」
「勿論!」
「…有難うございます。ご馳走になります。」
「ご馳走になりま~す。」
「…いぬい…」
どさくさに紛れて自分も奢られる気満々で飯島と一緒に金雀枝に頭を下げる乾に
金雀枝が盛大な溜息をつきながら諦めたかのように口を開く
「…いいよ…分かったよ!
もうついでだから加賀君の分も含めて全部奢ってやるよ!」
「流石社長!太っ腹~!」
「ハァ~…ホントお前は調子いいよなぁ…ったく…」
「調子よくなかったら社長の秘書なんてやってられませんよ。」
「…でしょうね。」
ハァ~…と金雀枝が再び盛大な溜息を吐き
車内では乾と飯島が焼き肉の話で盛り上がるなか
金雀枝がちょっと羨ましそうに二人を見つめながら切なそうな笑みを浮かべる…
―――…焼肉で盛り上がれるなんて羨ましい限りだよ…
“生きている証し”だね。
――私にとって“食事”はもう…
“血液”以外は味を楽しむため“だけ”のモノでしかないから…
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