さよならはマスクを外して

ラーさん

転校の日

 その年は新型ウィルスの世界的な蔓延で、みんなマスクをして過ごしていた。

 だから当然ボクも彼女もマスクをしていて、それはあの日も同じだった。


「三密回避のため窓は開放し、席は間を開けて座るように。また、近接での会話や不要な接触は避けるように」


 分散登校で閑散とした教室に響く先生のそんな話を聞きながら、ボクは暑苦しいマスクの下でずっと机の中に入っていた一枚のメモのことを考えていた。


「――それと、今日はみんなに残念な連絡がある」


 メモには見覚えのあるキレイな文字で、『終わったら校舎裏で』と書かれていた。


「吉岡が家庭の事情で転校することになった」


 先生の言葉に席から立ち上がる女子生徒がいた。みんなの視線が集まる。


「今までありがとうございました」


 マスク越しに見えない表情で教室を見渡し、彼女は別れの挨拶を短く告げた。

 メモの差し出し人の名前は『吉岡美津江』だった。

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