花火の祝砲ーたこ焼きが癒してくれたー
琉水 魅希
第1話 夏祭り初日
地元の祭りが今日から3日間神社を中心に行われる。
クラスでぼっちのため一緒に行く相手もいない15歳高校一年生。
なぜぼっちかというと、近所に住んでいて幼稚園から高校まで一緒だった幼馴染に告白したことが発端。
彼女は見た目も可愛くスレンダーで、学校では勉強も運動の成績も良く、ほぼ完璧女子だった。
そんな娘の幼馴染だというだけで周囲からは羨ましがられ、そして恨まれる。
来月の夏祭りの前に告白しようと7月中頃、放課後の屋上で思い切って想いを伝えた。
これまで幼馴染としての関係は悪くはないという自負はあったのだが。
「幼稚園の頃からずっと好きだ、付き合ってください。そして来月の夏ま……」
といったところで言葉を遮られた。
「はぁ?私があんたと?冗談じゃない。1億積まれても、死んでもお断りだわ。本当なら幼馴染と言われるだけで虫唾が走るというのに。」
断られるのは仕方ないと思っていた。幼い頃からの付き合い・繋がりと、感情は別物だから。
それでも、こんな言い方は酷いのではないだろうか。
自然と涙が両目から零れていた。
嗚咽は全然湧いてこなかったので自分が泣いていることにすら気付くのに時間を要した。
「泣きたいのはこっちよ。あんたに好かれて可哀想なのはこっちよ。」
それだけ言って彼女は去っていった。
屋上に吹く風が夏のものとは思えない程冷たく、心と身体を切り刻み何かが壊れた。
しかし幼馴染の攻撃は、これだけではなかった。
翌日、告白から彼女が立ち去るまでの一連のシーンが、教室内にあるテレビに接続され流されていた。
クラス内からはキモイだのダサいだの弱っちぃだのしまいにはなんで生きてるの?とまで言う者がいた。
この時再び何かが壊れた気がした。
俺が何かしただろうか、放課後屋上に呼んで告白しただけではないか。
自分判断ではあるけど、見た目は普通、太ってるわけでも細すぎるわけでもない、身だしなみだって普通だと思う。
成績だって中の上くらいはあるし、運動も中くらいではある。
表でも裏でも特定の誰かの悪口を言ったわけでもない。
少なくとも、一方的にこきおろされるような覚えはなかった。
この日を境に俺はクラスの中で誰からも相手にされる事はなくなった。
3日もすると耐えられなくなり学校を休んだ。
さらに2日が過ぎ、終業式にも参加しなかった。
クラスの誰かが通信簿を持ってきたり、連絡網を持ってきたり、プリントとかを持ってきてくれることはなかった。
そういえば、クラスではもう一人ほとんど学校に来てない女子がいたな。
その女子以外は全て敵に見えた。
クラスメイトはゴブリンやオークにしか見えなくなっていた。
幼馴染としての俺も彼女ももう死んだんだ。
そう思うことにして学校を休んだまま夏休みに突入した。
「そういえば宿題受け取ってないな。」
「教師からも連絡ないとかどんだけだよ。」
愚痴っても何も変わらない。
無気力になっていたのでこちらから問い合わせる気力もない。
いざとなれば転校か中退しよう、安易といえば安易であるがその程度にしか考えられなかった。
高校野球の予選や甲子園を見てだらだら過ごす夏休み前半。
このままだと多分9月になっても学校には行かないだろうなと思っていた。
親にはボッチになった事以外は伝えてある。
失恋長引かせるなよ~くらいしか言われていない。
まぁぼっち化は言ってないのだからそんなもんだろう。
ただ、このままで良いはずがない事も心のどこかで理解していた。
だからこそその日、外に出る決心をした。
多少なりとも身だしなみを整え神社の方へ。
もし上手く告白が成功していたら彼女と行くはずだった神社へ。
途中で横断歩道を渡るのが辛そうだったおばあちゃんを見かけたので一緒に渡り、迷子になった小さな女の子を一緒になって親御さんを探したりと時間を要してしまったけれど神社に到着した。
周りは夫婦、カップル、友人とほとんどが誰かと一緒に楽しんでいる人ばかりだった。
多分浮かない顔をしてたと思う。悲痛な表情だったんだと思う。
1件の屋台から声を掛けられる。
「ヘイ、そこの間違ってレアドロップを売ってしまってショボーンとしている表情をした少年!」
最初自分が声を掛けられている事に気付かず話の内容も理解せずスルーしていると。
「ヘイ、そこの新雪にダイブしたら犬のフンにダイブしちゃったような表情をした少年!」
いや、なんだよその例え話。
「ヘイ、そこの好きな子に振られてこの世の終わりだ~って思いこんじゃってる少年!」
「なっ、どこの誰だか知らないけど好き放題適当な事ばっか言ってんじゃ……」
声のする方を向くと、そこには鉄板やら具材やらを挟んで、長い黒髪を首の後ろで束ねた同い年くらいの女の子の姿があった。
「あれ?もしかして本当のことだった?なんか悪い。傷を抉っちゃったお詫びに出来立て1パック受け取ってくれよ。」
綺麗な丸い玉を串に刺し、ひょいひょいとパックに詰めていく。
おかかとソースが混ざりあい香ばしい匂いが伝わってくる。
青海苔を振りかけ、パックを閉じるとゴムで止めて、竹串と一緒にこちらに向けて渡してきた。
「ほい。本当は買って欲しくて客引きのつもりで声をかけたんだけどさ、父親譲りなのかセンスのかけらもなくて。美味かったら今度は買ってくれよな。」
前に出てきて無理やり手渡してくる。
その時触れた彼女の手の冷たさ(彼女の体温)と温もり(たこ焼きで温まった手)に、自分の意識とは無関係に涙が流れていた。
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