第2話 初テイムの作戦会議1

「お嬢様のためであればこの身、如何様になろうとも忠義のために尽くします」


「そんな大層な覚悟を表明されると戸惑ってしまうわ。程々でいいのよ、程々で」


「そうは参りません! お嬢様の願いがわたくしの願いでもあります」


 であれば程々に頑張って欲しいという願いも叶えてはくれないだろうかと思ってしまうのは些か意地悪だろうか。嬉しいわと返事をしながら、今の実力でテイムできる魔獣はいるだろうかと記憶を辿る。


 寝室の天井に住まう天使たちも一応魔獣ではある。あれらは本物の天使ではなく他に変身するのが得意なイミテーションラパンという生き物だ。契約によって天井に囚われている。 


 イミテーションラパンであればそれほど実力を必要としないであろう。


「それはやめたほうがいいですよ」


 ロイに提案すると、すぐにそう返される。「あれらは悪戯好きですから、扱いが難しいんです。それならばシエルシアンはいかがでしょう。空飛ぶ狼ですが、犬のように主の言うことを聞きます」


「そうね。ロイがそう言うなら間違いないわ。そうしましょう」


「……いいんですか? お嫌であれば、別の候補を調べてまいります」


「いやなんて言ってないじゃない。ロイは私より魔術に詳しいし、あなたの言う通りして間違えたことなんかないもの」


「そう、ですか」


 どうやら以前のアリスとの違いにまだ戸惑っているらしい。今まであればあれは嫌だこれは嫌だとロイを無為に走り回らせて、挙句に結局最初の提案がよかった、どうして意を汲んで早く手続きを進めてくれなかったのよと癇癪を起こす始末だった。いくつかテイムの候補を挙げるよう言われることを予想していたのだろう。驚いたような顔で見上げてくるので、その頭を優しく撫でた。


 これまで記憶が戻るまでの私はロイや周囲の人たちを大分虐げてきた。いずれは元の世界に帰りたいと思っているが、それまでに迷惑をかけた人々に罪滅ぼしをしなければならない。立場を利用して圧政を敷くのは元の世界で言うところの立派なパワハラだ。断固として過去の自分を許すわけにはいかない。


「さて、そうと決まったら、いつシエルシアンを探しに行きましょうか。たしか《東の森》に生息していたかしら」


「一番近いところはそこですね。森林の中であれば生きていける種ですが、群れで行動する上に行動範囲が広いので見つけるには少し難儀するでしょう。できれば索敵の術を使える人が一緒だと捗ります」


「索敵ねえ……」


 知る中でそれが使える人間がいただろうか。単なる索敵であればアリスもマチルダ先生に習ったことがあるが、ロイが言っているのは長距離索敵ができる者のことだろう。長距離索敵は近距離より格段に難易度が上がる。精度も肝要だ。教えられた位置が間違っていれば会敵することもなく全て徒労に終わってしまう。


「そういえば、チェシーレ様も魔術に秀でてらっしゃいましたね。ミラージュを使って聞いてみましょうか?」


「おねがい」


 ミラージュとは相手を映し出して会話をするための道具だ。まるでビデオ通話だわ、とアリスは思う。


 部屋の隅に置かれた大きな姿見の前にロイが立ち、短く呪文を唱えると、鏡面が揺らめきながらアリスの幼馴染の姿を映し出した。

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