★ 1番悪いのは誰?
重度の筋肉痛から全快し、今日が王都に戻ってきてから初めての出勤。
これから私は、団長にリーン村で遭遇した規格外について説明しなければならない。
(ユリウスさんがドラゴンと話せるってことは秘密にするけどね)
ユリウスさん自身はあまり気にしていないらしく、「話しても問題はない」と言っていたけど……。
私が気にするので、この辺りはぼかすことにする。
その代わり、村長さんのことは事細かく説明しよう。
たとえば、精霊の加護を持っているとか。洞窟内にいたボタニルドラゴンと友人関係にあるとか。今は喧嘩中だとか。
(封印うんぬんに関しては私が調べた結果、仔ドラゴンが成竜になったら構築し直した方がいいと思うって言おう)
あまり深く追求されるとしどろもどろになりそうだけど、そこはユリウスさんが来たことで気が動転したとか言って乗り切る。隠し事は得意ではないけど、たぶんなんとかなるだろう。
団長は理解のある人だから、その辺りは流してくれるはずだ。
「それにしても………常にフォローされてた側が、フォローする側に回る日がこようとは。感慨深いわ」
改めてやる側になって理解したけど、話す部分と隠す部分の匙加減が結構難しい。特に、フォローばかりしてもらっていた私からしてみれば。
今回、フォローする側に回って初めて、過去の自分の行いを反省したくなった。
(これからは迷惑かけないように気を付けよう………できるだけ)
言い切れないのが、私の悪いところ。でも、自信がないので仕方がない。私は無自覚にやらかすタイプらしいので。
「さてと――報告書提出に来ました。失礼します」
ノックもそこそこに、団長の返事を聞くこともなく、団長室の扉を開ける。
「おい。ノックぐらいしろよ」
「あれ?」
目の前にいる人物を見て、部屋を間違えたかと辺りをキョロキョロ見回す。けれど、部屋の内装からここが団長室であることは間違いない。
「ここ、団長室よ。部屋間違えてない?」
そう言って首を傾げながら向ける視線の先には、私にリーン村の仕事を勧めた同僚の姿。
口は悪いけど魔術師団の副団長である彼には、“副団長室”という別の部屋が充てがわれている。
なぜ彼はここで仕事をしているのだろうか?
「間違えてねぇよ。団長の代わりに仕事片付けてっからここにいんだよ」
「団長、休みなの?」
「あぁ」
「ふーん。珍しいこともある――」
「原因、お前だけどな」
「へ?」
言葉の意味が理解できず、目を瞬かせる。
リーン村に向かう前から現在まで、私は一度も団長には会っていない。それなのに、私が原因とは一体どういうことなのか。
「私、何もしてないけど……」
「直接的にはな」
「どういうこと?」
「つまり、元凶がお前で、直接的原因はお前の旦那ってことだ」
「もっと意味がわからなくなった……」
簡潔すぎにも程があるだろう、これは。
「私にもわかるように説明してほしいんですけど」
「面倒くせぇ」
「事情がわからないんじゃあ、団長に謝ることもできないじゃないッ」
と言いながら、執務机をバンバン叩く。事情を教えてもらえるまで、私はこの行為をやめるつもりはない。
すると、そんな私の意志を感じ取ったのか。副団長は面倒くさそうに溜め息をつきながらも、持っていたペンから手を離す。
「説明すっから机を叩くな」
「はーやーく………っと、その前にお茶淹れてく「やめろ。俺が淹れる」
なぜかものすっごい拒否され、「ソファーに座って待っとけ」とまで言われた。なぜだ。私だってお茶くらい淹れられるのに。
「解せぬ」
「へいへい。――団長はな、傷心中なんだよ」
そう言いながら、応接テーブルにお茶とお菓子を置き、ドカッとやや乱暴にソファーへ座る副団長。
「傷心中?」
「そう。傷心中」
「怪我をしたとかではなく?」
「体は元気」
「そっか………よかった〜」
「お前、旦那ことなんだと思ってんの?」
クッキーを頬張る副団長が、呆れたと言わんばかりの表情を浮かべる。
確かに自分でも、この確認はどうなのかなと思いはするけれど――
「私は、魔法を弄くりながら平穏に暮らしたいの。だからできるだけトラブルは避けないと」
「ほぉー」
「何よ」
「生粋のトラブルメーカーがなんか面白いこと言ってんなと思って」
ボリボリと休みなくクッキーを口に運びながら、半眼でこちらを見る副団長。
どうやら、私に対する認識は悲しいことにどこも同じようなものらしい。日頃の行いが物を言うとはまさにこのこと。
「………それで? ユリウスさんと団長の間に何があったって?」
「……………」
「何があったって?」
ジトーッとした視線から逃げに逃げ、すっとぼけた風を装う。けれど、副団長の視線は痛い。
「………はぁ、もういいわ。――お前がここを出て行った後、少ししてから団長が戻ってきてよ。更にそこから少し経って、お前の旦那がここへ来たんだ」
「うん」
「で、お前の旦那は団長にこう尋ねた。『妻はどこへ向かったんだ』ってな。――お前、なんで行き先伝えとかねぇんだよ」
「うっかりミスだね」
「堂々と言うことじゃねぇわ」
と、副団長からは呆れられるけど、こればかりは仕方ない。あの時の私には、行き先を伝えるという考えがなかったのだから。
「でも、その流れのどこに団長の心が傷つく原因があるのよ?」
「そりゃあ、お前……」
「?」
「団長が行き先を答えられなかったからだろ」
「あぁ、そっか……………え? なんて?」
聞き間違いでなければ、団長が私の行き先を知らなかったと聞こえたのだけど。………いや、そんなまさか。
「団長がお前の行き先を知らなかったんだよ」
「………冗談でしょ?」
「いや、マジで」
「団長ォォォォォ」
もっと私に興味を持って!! と割と本気で叫びたい。
それとも、トラブルメーカーを視界に入れるのも嫌になってしまったのだろうか……。切ない。
「まぁ、その結果――ここが地獄と化したよな。殺気のすげぇことすげぇこと。俺は即刻逃げたけどな」
「裏切り者だ」
「なんとでも言え。俺は自分の身が可愛い」
「………それは真顔で言い切ることか?」
コイツも大概、図太いなと思う。
――とはいえ、どうして団長は私の行き先を知らなかったのだろうか。
正式な仕事で出ているのだから、普通行き先は把握していないと駄目なのでは……。
「まぁ、俺が報告し忘れてたせいだけどな」
「……………アンタが元凶じゃんッ!!」
「そうとも言う」
「それしかないわッ!!」
なんだ、コイツ。平然とした顔で人に責任押し付けようとして。
確かに、ユリウスさんに行き先を言わなかった私も悪いし。団長に本気の殺気を飛ばしたユリウスさんも悪いけど――。
「報告忘れたアンタが一番悪いッ!!」
「いや〜、うっかりミス」
「態度も軽いッ!!」
悪びれた様子もなく、クッキーを食べ続ける副団長には呆れしかない。
けれど、自分も悪かった自覚はあるので、団長が無事に復帰したら謝ろうと思う私なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます