第24話 ペアルックしたいの

 昼食を食べ終えた後。

 またまた茜の要望で、俺たちは近くのショッピングモールを訪れていた。


「早く早く~」


「はいはい」


 時間がなくてここ最近来れてなかったらしく、茜はテンションが高かった。

 いや、常に高いか。


「それにしても、大丈夫なのか? 結構人いるけど」


「大丈夫大丈夫。今のところ全くバレてる感じないし、余裕だって」


「……そうか」


 あくまでも変装は崩さず、だけど美少女さは隠せていない。

 だからバレる心配もあったのだが、今の茜の姿を見ていたらダメだなんて言えなかった。


 茜に手を引かれて、ウィンドウショッピングをする。

 正直、彼女にこうして振り回されるのには憧れがあった。

 ……ドMじゃないからな?


「どうどう? 私に似合うかな?」


 入った店で手に取った服を自分の体に当てて、踊るようにくるっと一回転する茜。

 さすが大人気モデル。今の動作にも華があった。


「似合ってる似合ってる」


「ほんと? やった」


「まぁ元がいいから、ぶっちゃけ何でも似合う」


「えへへ~嬉しいこと言ってくれるねぇ」


 本来であるなら、こんな大胆な発言は俺としても恥ずかしいのだが、この茜の幸せそうな顔を見れると思ったら羞恥心などたやすく犠牲にできる。

 男……すなわち俺という人間は、欲望に忠実なのだ。


「おっ、ペアルック」


 茜が手に取ったのは、某有名ブランドの黒のパーカー。

 どうやらメンズとレディース両方あるらしい。


「ペアルックかぁ……まぁ憧れはあるよな」


「でも、ちょっと恥ずかしいよね」


「まぁな。でも、茜が人前で堂々と甘えてくる方が恥ずかしいけどな?」


「それは歩夢が人前で私を誘ってくるのが悪いんでしょ? 全く、人のせいにしちゃって……昔からの悪い癖だよ? めっ」


 始まった茜お姉さん(説教)バージョン。

 ほんとなんで俺が怒られてるのかわからないけど、とりあえず受け止めよう。


 あと、最後の「めっ」は反則だ。


「俺としては誘ってるつもりないんだけどなぁ?」


「……ん」


「ん?」


 茜が視線を向けた先には、茜のコートを持った俺の右手があった。

 きょとんした顔を茜に向けていると、ジト目で茜が睨んでくる。


「そういうさりげない気づかいが私を覚醒させるんですよ?」


「覚醒⁈ 今覚醒してんのか?」


「えぇそうですとも。私は今なら歩夢とちゅーできます」


「か、覚醒してんな……」


 幼い頃に一度だけ……確か一度だけキスしたことがあった。

 だけど再会してからは当然していなくて、確かに茜は覚醒しているようだ。


「だから、歩夢が私を誘ってます」


「……ごめんなさい」


「ふむ、よろしい」


 腕を組んで「えっへん」と言っちゃう茜。

 もう俺が折れなきゃ終わらなかっただろうな。


「というわけで、この服は私が買ってきちゃいます」


 茜は二着、黒のパーカーを持ってレジに向かった。

 

「えっお前二着も着るのか?」


「違うわ! 歩夢とお揃いのを……ね?」


 上目づかいでそう言う茜。

 

「だったら俺の分は俺が買うよ」


「だーめ。私がペアルックしたいの。だから私が買う」


「いや、でもなぁ」


「歩夢は私の指示に従う。異論は認めません!」


「ぬっ……わかったよ。よろしく」


 こうなっては、頑固者の茜は自分の意見を捻じ曲げない。

 やはり折れるのは、俺の仕事のようだ。


「うん!」


 ルンルンでレジに向かう茜。

 その姿を後ろから温かい目で見守りつつ、やはり、と改めて思う。いや、何度でも思う。


「俺の彼女、やっぱり可愛いな」


 思わず口から出た言葉。

 うっとおしいほどに、俺はこのセリフを言っていた。


 その後、しばらくの間茜とショッピングモール内を回った。

 お互いにコーディネート対決したり、休憩がてらカフェに入ったり。


 俺たちはその間絶えずくだらない話をして、手を繋いで。

 まるでショッピングモールには俺たちしかいないんじゃないかと思うほどに、周りを気にせずに、俺たちはデートを楽しんだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る