第15話 氷見玲於奈は乙女である
「……」
「……」
土曜の昼下がりのファミレスにて。
俺と氷見は迫っている中間テストの勉強に打ち込んでいた。
ちなみにネタ枠の正弘は家の用事で来れないらしい。だから珍しく二人で勉強会を開催していた。
「ふぅ~ひとまず一区切りはついたな」
「おつかれ~。じゃあ一旦休憩しよっか」
「そうだな」
俺はそう答えて、問題集を閉じた。
ぬるくなってしまったコーヒーをすする。
「ほんとに私と二人で大丈夫なの? 明理川さんに勘違いとかされない?」
「大丈夫大丈夫。許可取るのにすげぇ苦労はしたけど、許可はもらってる」
「そっか。じゃあばっちぐーだね!」
「……ネタが古いわ」
実は、茜から許可を取るのにはほんとに苦労した。
というのも、基本的に俺は茜に嘘はつかないので「親友だ」と言って信じてもらったものの、「親友でも親友がイヤ」と言われてしまった。
あいつほんと独占欲強い。
いや、そういうところが可愛いんだけどね?
結局、今度添い寝してやるという条件で勉強会に行かせてもらえた。
……理性が保てるか心配だ。
「ドリンクバー入れてくるけど、なんかいる?」
「うーん……じゃあコーヒーで」
「了解」
とてとてと歩いていく氷見を横目に俺は思う。
これ、氷見の姿を見られたら余計怒らせちゃうんじゃないか?
氷見は学級委員であるが目立たないタイプの美少女だ。
それでも氷見の噂は生徒全体に広がっており、たまにウチの教室まで見に来る人もいるくらいだ。
そんな氷見と二人っきりで勉強会はさすがにまずかったのかもしれない。
俺と氷見はお互い、ただの仲のいい友達なだけだけど。
「はいコーヒー」
「サンキュー」
それに、氷見には好きな人がいる。そして俺はその好きな人を知っている。
俺と氷見の間にラブコメが起こるなどありえないのだ。
「最近、あいつとはどうなんだ? 進展でもあったか?」
「……きゅ、急だね」
「前振りとかめんどいもん」
「それすごく大事だから端折らないの!」
今の会話だけで、氷見は俺がなんの話をしているのか分かったのだろう。
頬がぽっと赤みを帯びている。
これは見覚えのある――恋する乙女の顔である。
「……最近はほんと何もない。歩夢が彼女に構ってる時に二人でファミレスに来てるくらい」
「そうか……あいつはどんな感じだった?」
「なんとも思ってない感じだった。あれにももちろん気づいてない……と思う」
「……はぁ、そうか。これだから鈍感は嫌だな」
「そうだね。男の子は女の子の気持ちを察してあげる義務があると思うんだよなぁ?」
「それは俺に対しても言ってます? まぁ先に謝りますごめんなさい」
「んふふ。許す」
俺は自分では比較的鋭い方だと思っているが、今の感じだと俺も鈍感を発動させているのかもしれない。
男として鈍感はあるまじきことなので、もっと注意深くならなねば。
そんなことを思っていると、氷見が深い溜息をついた。
「ほんとは私がもっと積極的になれればよかったんだけどなぁ……ほんと、積極的になるにはどうしたらいいんだろ……」
「積極的……かぁ」
積極的という言葉を聞いて、一人の人物が思い浮かんだ。
積極的と言えば、あいつしかいない。
俺はいい策を思いついたので、ドヤ顔で氷見の方を見た。
「積極的になれる方法、知りたいか?」
「し、知りたいけど……」
「じゃあとっておきの人を紹介してやるよ。ほんとに、とっておきの人だ」
俺の言葉に、氷見はよくわからないといった表情を浮かべている。
だけどきっと大丈夫だろうという確信めいたものがあるから、俺はドヤ顔を続けられた。
そんな俺の顔を見て何かを感じ取ったのか、氷見の顔から困惑の感情が晴れていく。
やがて決意したような表情で言った。
「お願いします」
その言葉に、俺は自信に満ち溢れた表情を返した。
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