第12話 見定めとからかい
「話……とは?」
「話は車でしませんか? 適当にこの辺りをぶらぶらしながら話しましょう」
「は、はい……わかりました」
当然茜のマネージャーさんに言われては断れるわけもなく。
俺は承諾して車に乗り込んだ。
それに続いて茜も乗り込もうとする。が、
「茜は家でお留守番していてください」
「ぬあっ⁈ な、なんでよ! 私もドライブ行きたいんだけど!」
「これは大事な話なんです。だから茜はお留守番です」
「えぇ~私歩夢の彼女なのに、なんで美人なお姉さんとの二人っきりドライブを許可しなきゃダメなの⁈ まぁ歩夢が私以外の女子に揺らがないとは思うけどねぇ?」
威圧をかけてきやがる。
だけど全くその通りで、茜は世界一可愛いので揺らぐわけがない。
「大丈夫だ。安心してくれ」
「で、でも~……」
「大丈夫ですよ、茜。私八朔君はタイプじゃないので!」
「さらりとフラれてる⁈ 若干傷ついたんですけど……」
「私が癒したげる!」
俺の手をぎゅーっと握ってくる茜。
必死にやってるのがひしひしと伝わってきて、なんだか温かい気持ちになる。
他の女性に好かれなくても、茜に好かれていたらいいやと、この時思った。
「ありがと。癒されたので行ってきます」
「むぅ~」
マネージャーさんが運転席に座ってもなお、俺から手を離さない茜。
俺だって手を離したくはないけど、時間も無くなってしまうので離さなきゃいけない。
「茜?」
「……帰ってきたら、歩夢を私に頂戴」
「何それ重」
「どうもありがとう。じゃあ行ってらっしゃい」
「なんか俺が気づかぬ間に交渉が成立してたのはなぜ?」
俺の言葉が聞こえていないのか、茜はそのまま手を離した。
マネージャーさんとアイコンタクトを取った後、俺のドアを閉める。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ひとまず俺が俺自身を茜にあげる件に関しては何も考えないでおこう。
それよりも今はマネージャーさんの話だ。
「じゃあ行きますね」
「はい」
そして車はゆっくりと発進し始めた。
***
車が走り始めてから五分ほどたっただろうか。
未だにマネージャーさんからお話はなく、ただただ気まずいなぁと思う。
決して美人だからというわけではないが、ほぼ初対面の女性と急に二人っきりになるというのはさすがに緊張する。
それに沈黙なのも、軽く拷問だ。
「……」
「……」
さすがにきつくなってきたので、そろそろ俺から話を始めようかと思っていたとき、前を見ながらマネージャーさんが言った。
「……もうキスは済ませたんですか?」
……は?
赤信号になり、車が減速して止まった。
ふぅ、と緊張状態を解いたマネージャーさんは、真剣な眼差しを俺に向けてくる。
「あっ、もしかして大人の階段ももうすでに……⁈」
「上ってませんよ! ってか、茜とはそういうことまだしてないんで」
「まだ……ということは、この先する予定が……」
「もうこれ以上思春期の男子で遊ぶのはやめてください……」
「ごめんなさいごめんなさい。八朔君のツッコみがいいからつい……ね?」
「……ま、まぁいいですけど」
もしかして話というのは、思春期の男の子をからかって遊ぶということなのか?
ということは、マネージャーさんはとんでもないドSということになる。
……いやいや、そんなわけないだろ。
するとマネージャーさんは、柔和な表情を浮かべてアクセルを踏んだ。
「話というのは、実は特にないんです」
「はい?」
「ふふっ、ごめんなさい。ただ茜がどんな人が好きで、その人のためになんで東京を離れたのか気になっただけなんです。つまり、ただの私の興味本位というわけです」
「な、なるほど……」
確かに、見定めという面でも、マネージャーとして知っておきたかったのだろう。
だけど、今のマネージャーさんの表情を見る限り、俺は認められたようだ。
「私結構勘が鋭くて、その人がどんな人なのか少し話せばわかるんです」
「それはすごいですね」
「だから、八朔君がただの幼馴染大好きな男の子だということが分かりました」
「また僕のことからかってます?」
「いえいえ、むしろ褒めてるくらいですよ」
「あ、ありがとうございます?」
「どういたしまして」
またマネージャーさんがふふっと笑う。
俺もそれにつられて笑みがこぼれた。
茜のマネージャーさんがいい人でよかった。
「茜のこと、よろしくお願いしますね?」
「はい。分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、マネージャーさんと話すイベントは何事もなく終わった。
だけど――
「あぁ~なんか二人とも仲いい感じ! 浮気? 浮気なの⁈」
「メンヘラ彼女かお前は。っていうか、俺が茜以外の女子に惹かれないってわかってるんだろ?」
「そ、そうだけど……」
そんな会話をしていると、聖母の笑みを浮かべているマネージャーさんが車から降りてきた。
それを見た茜が、急に俺の肩に抱き着いてきた。
「樋ノ口さん! 歩夢は私のものなんで、指一本でも触れたらだめですからね!」
……なんだこいつほんと可愛い。
そんなことを思っていると、大人の余裕を感じさせるマネージャーさんが口を開く。
「えぇ~どうしよっかなぁ~」
「ひゃぁぁぁぁ大人の女性怖い!」
「うふふ~」
ほんと仲いいなこの二人。
なんとも微笑ましいなと思った。
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