第6話 ラブコメギャグ割り
家を出るときに言われた、「いってらっしゃい」の言葉。
調子のいい茜は母さんのフリフリエプロンとフライパンを持って新妻感を出してくるもんだから、胸に来るものがあった。
だけど一つだけ言えることがある。
玄関先までフライパンを持ってくる新妻はいねぇ。
教室に入って、自分の席に座る。
教科書を机に入れ終え、単語帳を開いたところで鬼の形相で迫ってくる二人の姿が目に入った。
「おはよ、正弘と氷見」
「おはようの、言葉よりも、君の恋バナが聞きたいな」
「俳句風に言ってるけど全然五七五じゃねぇな」
「私たち恋バナ大好き。だから聞かせて? 美少女と何があったのか」
正弘も氷見もノリノリである。
相変わらずの二人だなと思いつつ、単語に目を落とす。
「同棲することになった」
「いやなんで教えてくれ――ど、同棲⁈ は、はぁ⁈」
「大変だ! ここにラブコメの主人公がいるよ!」
「二人ともノリノリすぎるんだよなぁ……」
こんなにも生き生きとした二人は、正弘の家で夜宴をした以来だ。
もう深夜テンションに入っちゃってんのかな? でも朝だし……早朝テンション?
まぁどっちでもいいけど。
「それで、こないだ校門前にいた奴が俺の幼馴染」
「……」
「……」
「「ほんとにいたっ⁈」」
「お前らぶっ飛ばすぞ」
序盤からラブ要素強めだったからギャグで薄めようっていう作者の意図が見え見えである。
それほどに今の二人はギャグノリだった。
「じゃあもしかして……あれが明理川茜(あかりがわあかね)……さん?」
「そうだよ」
「……こいつやっぱラブコメの主人公だ。間違いねぇ」
「だったら私、主人公に好意を寄せる学級委員キャラじゃん」
「俺は……友人キャラか。イケメンじゃなくてごめんな」
「話が勝手に進んでいく……」
ちなみに氷見は他に好きな人がいるし、正弘は……友人キャラほどイケメンではない。
だから別にラブコメってわけじゃないだろう。
「でもこれでようやく、勉強ばっかの歩夢に彼女ができたわけだ」
「ほんとよかったよ。姫岡さんの告白断った時は狂ってるなガリ勉、って心の中で悪口言っちゃってたけど、幼馴染がいたんだね。よかったよかった」
「俺そんな風に思われてたのかよ……ってか、俺茜と付き合ってねぇよ」
「「⁈」」
二人ともバラエティー番組に出演しても何らおかしくないリアクションをとるもんだから、話していて気持ちがいい。
ただ、そう言えば俺と茜は恋人になったわけではないなと思う。
でも結婚の約束はしたし……許嫁ということになるのだろうか。
正直そこら辺の関係については考えてもいなかった。
「じゃあどういう関係なの?」
「……結婚の約束はしてるけど、特になんも考えてなかったわ。今日帰ったら相談してみる」
「正弘にラブコメはわからぬ」
「玲於奈にラブコメはわからぬ」
「……ほんとお前らノリいいな」
今この三人トリオで漫才できるんじゃないかと思うくらいに、ボケとツッコみが綺麗に分かれていた。
正直めんどくさいけど、嫌ではない。
あと、この二人との付き合いも長いし、慣れたってのもある。
「じゃあしばらく放課後の駄弁りタイムは参加できない?」
「んーどうだろ。行けるときは行くわ」
「おっけ。じゃあ氷見と俺の二人編成だな」
「……ツッコみ不在で結構キツイね」
「……ほんとそれね」
そういう二人だけど、たぶん二人でもきっと楽しむと思う。
器用だしな。
まぁ、俺もあの時間は大切な時間だから、行けるときがあったら行こうと思う。
かまってちゃんモードの茜が許してくれたら……だけど。
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