最難な美少女

 俺たちに新しいクラスメイトができた。


 名前は最上恵美。


 周りからは異質な少し長い銀髪を胸まで伸ばしており、右目を完全に長い前髪で隠している女。


 基樹や入江は可愛い!!っとか、美人だ!!っと言っているが、俺も何故かこの女に対してみょうに引かれる何かを感じる。赤い糸?ハハハッ、笑い話にもならないっての。


 3時間目が終わり、後ろの席に座っている最上は外をボーっと眺めている。


 1時間目の後とかは女子が自分達の輪に入れようと最上に話かけていたが、こいつのバッサリとした壁を作る話方に2時間もすれば誰も近づかなくなった。


 俺が何気なく後ろを向いて最上の顔をじっと見てみると、その視線に気づいて目を細めてくる。


「……何?」


「いや、別に。そう言えば、自己紹介してなかったなと思って。俺は……」


「関わる気はないから必要ない」


随分ずいぶんと人を拒絶きょぜつするんだな。……じゃあ、質問。どうして、さっきは俺から逃げた?おまえ、さっき何に驚いたんだ?」


「答える気はない」


「……マジかよ」


 話の話題を探そうとするも、会って初日で話すことなんて、数えるほどしかない。


「部活、入るのか?」


「入る気はない」


「調子はどうだ?」


「悪くはない」


「いい天気だな」


「空は見ていない」


「好きなアーティストとか居る?」


「居ない」


「じゃあ……」


 どうにか会話を弾ませようとしているのだが、この最上と言う女、全く取りつく間もないほどにバッサリと切ってくる。


 次に何を聞こうか考えていると、最上が頬杖をついて睨んでくる。


「あんた……気持ち悪い。関わる気はないってついさっき言ったはず」


「……だったな、悪い」


 このまま話してもうざかられるだけだと思い、前を向いた。


 そして、4時間目の授業が始まった。



 -----


 

 昼休みになって、優等生モードで誰とでも仲良しな住良木麗音さんが最上に近づく。


「最上さん、一緒にお昼ご飯食べよう?」


「嫌だ、1人で食べてる方が楽」


「でも、みんなで食べるご飯は美味しいと私は思うなぁ」


「あんたがそう思うのは勝手だけど、ただのエネルギー補給ほきゅうの時間に無駄に集まる必要性は感じない」


「友達と一緒に居るのは楽しいよ?」


「他人に時間を拘束されているようで嫌」


 またバッサリと切りやがった。


 前の席でパンを食っている俺は気にしないようにしているが、麗音が俺に視線でSOSを送ってくるのを背中から感じる。


 しょうがないか。


「おい、もが……」


「あんたと話す気は毛頭もうとうない。黙ってパンをムシャムシャ食べてなよ」


「……お邪魔しましたー」


 大人しく引き下がって前を向き、言われた通りパンを食べました。


 麗音が俺に『裏切り者ー‼』と言うような目を向けてくるが、それは気づかないふりをした。


 わかってくれ、麗音。俺のHPはもう0だ、この女の前の席と言うだけで心が限界だぜ。


 麗音はまだ攻略法を探ろうと、最上の隣に座って話を振る。


「最上さんは、前はDクラスだったの?それともFクラスだったのかな?」


「……知らない」


「知らないって、どういうこと?」


「言う必要性を感じない」


「そ、そっか。知られたくないなら、無理に言わなくても良いんだよ?私もごめんね、変なことを聞いて」


「そこは別に気にしていない。……だけど、私を1人にしてくれないなら、本当にキレるよ?」


 最上は殺気に近いものを眼光から放ち、それに麗音はビクッと震えてしまう。


 俺はパンを食べながら麗音を見ると、左手でジェスチャーで成瀬たちの元に行くように伝える。


 麗音はそれに従って、成瀬たちが待つ食堂に向かって行った。


 今日は食堂でいつもの5人で集まって食べることになっていたが、俺は妙に最上のことが気になり、監視するためにキャンセルした。


 最上……最上ぃ……やっぱり思い出せない。何か、頭の中で引っかかるんだよなぁ。


 いつも昼休みは教室を独占しているマイペース組が食堂に行ったので、俺は最上と教室に2人っきりになる。


 気まずい。まさか、こいつと2人だけになるとは思わなかった。


 最上を本人に気づかれないように視界の端で捉えると、彼女はかばんの中から1つの大きなパンを取り出して、包んでいるラップをがす。


 それを見て、思わず聞くような口調で声が出てしまった。


「それ……何だ?」


 最上が手に持っているのはコッペパンで、それは縦に半分に分かれており、そこには信じられないようなものがはさまれていた。


 ソースの絡んだパスタ麺、ソーセージ、目玉焼きだ。


 見た目だけで判断するなら、それはナポリタンのように見える。


 最上は小さな口に含む前に質問が耳に届いたのか、小声でこう言った。


「……ナポリパン」


「あ?…ナポリタンじゃなくて?」


 あれ?こいつ、俺と話す気はないんじゃ…って聞いたらダメだな。話が終わってしまう。


 聞き返すと、最上はどこかムキになったような表情をする。


「ナポリパンとナポリタンを一緒にしちゃダメ。ナポリタンよりも、ナポリパンの方が100倍、美味びみ!」


「いや、パンで挟んであるだけじゃん…変わんねぇだろ?」


「ナポリタンの美味しさを、ちゃんとパンが100%引き出してる!ナポリタン単体じゃ出せていない食感とか……いろいろと‼」


「そ、そうなのか?じゃあ、少し千切ちぎって俺にもくれよ?もうパンは全部食べっちまったからさ」


 右手を出して言うと、最上は頬を膨らませてプイッと顔をそむける。


「ナポリタンの肩を持つ円華には絶対にあげない!!円華はナポリパンの敵!!」


「おいおい、敵って……あれ?おまえ、どうして……俺の名前……」


 俺は自分の名前を最上に言ってない、絶対に。


 なのに、最上は今、名前を呼んだ。


 彼女の顔を見ると、目を見開いて瞳が少し揺れている。


 気のせいか、カーディガンを着ていて暑いのか、最上の額から油汗が流れて行く。


 俺はこの時、あることを思い出して手をポンッと叩く。


「そうか、だから自己紹介が必要ないって言ったんだな。そう言えば俺、転入した次の日に全校生徒に個人のプロフィールを一斉送信したんだった。それを見たから、俺の名前を知ってたんだろ?」


「そ、そう…!!プロフィール……見たから」


 最上は前後に何度も頷いて同意し、小さく息を吐く。


 明らかに反応が変だ。この女、何かを隠していないか?


 その後は何を聞いても「答える気はない」と言ってナポリパンを食べていて、最上が食べ終わる頃には、昼休み終了のチャイムが鳴った。


 この時間で、ナポリパンを通して少しは距離が縮まったのかと思ったが、クラスのみんなが帰ってくると、また心の壁を作られてしまった。

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