恋した乙女は神様の言いなり
鷹月のり子
第1話
カッターナイフで指を切ったオレにハンカチで手当てしてくれたから。
そんなわかりやすい理由が好きになったキッカケだった。
以来、ついつい彼女のことを見ていて、もう一年になる。
指を切ったのは文化祭の作業中、今年の文化祭はクラスが別々になったので会う機会もない。ただ、せめて廊下ですれ違えたときは挨拶するようにしている。
「おはよう、帆場さん」
「おはようございます。三上くん」
たった、それだけのやり取りでも嬉しいから、たぶん、いや、きっと、オレは彼女に惚れている。
他の女子が、やたらと制服スカートを短くして、それもう逆セクハラだろ、ってくらいパンツを見せてくるのに、彼女は1センチも短くしない。買ったときのまま。
やたら化粧とか香水の匂いがする奴らに比べて、帆場さんからは自然な匂いしかしない。
髪を染めたりもしない。
清楚で上品で、誰にでも丁寧に平等に接している。
こんな女子がいるんだ、ってくらい、可愛い。
他の女子がニセモノやマガイモノに見えるくらいだ。
ただ心配なのは家が貧しいのかもしれない。靴の底が減っても買い換えないし、靴下を補修して使っていて、それでも穴が開いていたこともあった。あのときは委員会が同じで家庭科室の和室へ食器を運び込んだときだった。畳の間へあがるのに彼女が上靴を脱いだ。そのとき、靴下の穴から彼女の足指が見えていた。白くて、柔らかそうな指だった。でも、オレの視線に気づいて、彼女はとても恥ずかしそうに足を引いて赤くなった。オレは見なかったことにしたし、彼女も黙って作業を済ませた。今年も同じ委員に立候補したのに、彼女は別のクラスで、別の委員だった。
「三上ってさ、帆場のこと好きだろ?」
親友? いや、腐れ縁か、たまたま小学校、中学、高校と同じだった日系ブラジル人の村井洋介が帰り道で言ってきた。見た目は少しブラジル人っぽいが、日本語しか話せない、がっつり日本育ちの男子だ。
「フ、ゲスな質問をするな、小僧」
と答えておいた。蹴ってくるので蹴り返す。
「誰が小僧やねん」
「サッカーさせるぞ」
ブラジル人が全員サッカーが巧いわけじゃないし、日本人がみんな日本刀を持ってるわけじゃない。まあ、アメリカ人はたいてい銃をもってそうだが、世の中ってのは見た目通りや期待通りとは限らない。
彼女も意外な一面があって、全校集会や体育祭で、君が代が斉唱されるとき、必ず起立しないで一人、座っている。いや、不真面目な男子も何人か座ったり無駄口を叩いてるが、彼女は孤立に孤高に、そして気高く、一人きり座っているのだ。
なので最近、オレも座っていることにした。
そして、ある日、彼女がいきなりオレの家に訪ねてきた。
住所も教えていないのに、連絡もなく、いきなりオレの家に来たんだ。
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